「健康保険証廃止」まで3カ月を切ったが…

「だいぶ増えてきましたよ、マイナ保険証の患者さん」

勤務する病院の受付事務職員に、そう声をかけられた。

「本当?」と振り返ると、「ええ、このところは1日に4~5人はいますよ」と彼女。そして笑いをこらえつつ「ついこの前までは1日に1人いるかいないかでしたもん」と続けた。

その病院は、1日の来院者が内科だけで100~120人ほどだから、政府があたかも健康保険証消滅のデッドラインであるかのように国民に刷り込んでいる「12月2日」という期日から3カ月を切った現時点でさえ、マイナ保険証の利用者数はたったの5%以下ということになる。

医療機関によっては10%くらいの利用率となってきたところもあろう。だがここまで「期日」が迫ってきても、急速に利用率が伸びないのは、やはり政府の強引なやり方に違和感や不安、いや怒りを覚えている人が少なくないからではなかろうか。

もっとも、先月の記事〈ただでさえ待たされる「病院の受付」が大混乱に…「マイナ保険証は患者の人命にかかわる」と医師が訴える理由〉でも述べたとおり、慌ててマイナ保険証を作る必要などまったくないのは事実であるから、それを知りつつ「ただ面倒臭いから作っていないだけ」という人もいるだろう。

総裁選の争点に「延期論」が急浮上したナゾ

この記事は、それはそれは多くの反響をいただいた。内容に肯定的な意見も多数いただいたが、一方で「マイナ保険証を使っているけど、時間もかからずとても便利。なぜ使おうとしないのか意味がわからない」という意見も少なからずいただいた。

もちろん私はそういう人のことまで否定する気はない。「便利だ」と思う人は、そのまま使い続ければ良いと思っている。私の批判の矛先は「使いたくない」「使えない」人にまで強制する政府の強引な手法に向けてあるのだ。

自民総裁選/インタビューに答える河野氏
写真=時事通信フォト
インタビューに答える河野太郎デジタル相=2024年9月20日午前、国会内

おりしも自民党総裁選。候補者のなかには、「健康保険証廃止」を強引に決めた河野太郎氏を牽制する目的なのか、本心から言っているのか、はたまた人気取りのためだけなのかは不明だが、「健康保険証廃止延期論」や「マイナ保険証と従来の健康保険証の併用論」を公然と掲げる者も出てきている。

つまり政府与党内でさえ「健康保険証廃止、マイナ保険証一本化」をこれまでどおり強引に進めることについては、もはや賛否がごちゃ混ぜの事態に陥ってしまっていると見るべきであろう。「作りたくない人」「作れない人」は、なおさら慌てる必要はなくなったのである。