味や香りの特徴を表現する「フレーバーホイール」
一般に、味や香りは「言葉」にしづらい。自社だけでなく他社と共同で何かを生み出そうとすれば、なおさら言語のニュアンスの違いに苦戦するはず。
下永さんたちが、協業する2社とコミュニケーションを取るうえで、なんとか共通言語を探ろうとしたのも、それぞれに異なる文化や言語があったからでしょう。
実は飲料に限らず、別の業界でも、同じような悩みを抱える企業は数多い。そんななか近年、次々と登場しているのが「フレーバーホイール」という表現ツール。食品や飲料から感じ取れる味や香りの特徴を、円や層の形に並べたものをいいます。
たとえば08年、ミツカンは「だし」のフレーバーホイールを完成させました。
まず、だし評価のための用語約250語を収集し、それらを整理、体系化したうえで、抽象的な言葉を削除。類似語をグループ分けするなどして40語を厳選し、円状のホイールを創り上げました。
一方、16年に「しょうゆ」のフレーバーホイールを作成、発表したのは、キッコーマン。こちらは世界中から集めた149銘柄ものしょうゆから、味や香りに関わる88種類の特徴を見いだし、やはり円状に体系化していったそうです。
こうしたツールは、社内や他社と味や香りについて話し合ううえで、確かに有効な共通言語となり得るでしょう。
対面がかなわない協業相手と共有した思い
ただ今回、コロナ禍でオンラインコミュニケーションを強いられた、日本コカ・コーラが、協業する2社と共有したのは、単なる言語にとどまらなかった。対面がかなわず、互いの表情や空気感を読みとれない中でも、3社は「本当においしいものを創る」という共通の妥協できない目標に向けて、何度も何度も議論を重ね、言語のズレを修正していきました。
だからこそ生まれた、ヒット商品。複数の企業が協業し、意外性のある商品を実現させるためには、共通言語の創出とともに、こうした「譲れない思い」が必要なのではないでしょうか。