『とさ』が有効なストレス対処法になる

また、突然理不尽なことを言われたりすることもあるでしょう。

そんなときは、「私はあの人からこんな嫌なことを言われて、気分が悪くなった『とさ』」と心の中で起こった状況と自分の感情を文章化したうえで、最後に「とさ」をつけてみてください。

なんだかおふざけみたいに思えるかもしれません。しかしこれは大変有効なストレス対処法として、心療内科の診療でもしばしば用いられる技法です。こうすることにより、自分が置かれているネガティブな状況から少しだけ距離を置き、冷静で客観的に状況を見られるようになります。

苦手な人を「ケース・スタディ」として記録するのもいいでしょう。ケース・スタディとは、臨床医が患者さんの治療経過から学び、それをより良い医療に活かしてゆくために学会などで共有する「症例報告」のことです。

「またあの上司にこう言われた。上司が怒り出すのは大体月末の金曜日。きっと疲れがたまっているのだろう。周りから結果を出せと責められて、わたしに八つ当たりしている可能性がある、と考察した」

このように、分析的に心の中で記録することで、心理的余裕が生まれ、感情が疲弊しなくなります。

心のケアの始まりは自分のイライラに気づくこと

自分は今、イライラしている、疲れている、怒っている、そういうネガティブな気持ちに気づくことが、自分に対するケアの始まりです。ここで大切になってくるのが、「セルフ・コンパッション」です。

セルフ・コンパッションとは、自分を労る心、自分を大切にする心の在りようのことを指します。肌のケアをすると、ささくれが治るのと同じように、自分の心や体のケアに時間を使うと、自分だけでなく他者に対しても思いやりの念がわいてきて、他の人の存在を受容できるようになっていきます。

そして、ネガティブな気持ちに気づいたら、あえて関係ない行動をとると、気持ちの切り替えができます。私がよくお勧めしているのが「インターベンション・ブレスレット」という手法で、私自身もその効果を実感しています。

どちらかの手につけた腕時計(髪留めやリストバンドなどでもOK)をもう片方の手に移動するだけ。「今、自分を責めているな」と感じたら左から右に移す。そのあとは普通に生活する。その問題が解決してもいいし、解決できなくてもいい。また嫌な気持ちがわきあがってきたら反対側に移す。これを繰り返します。

これは自責の念にかられたときに、とくに効果的です。私はダメだな、と思ったときにブレスレットを反対側につけてみると、ダメだな、と思っているという事実に気づき、その感情に100%浸かりきっていた状態から徐々に離れることができるようになり、ストレスが低減してゆくのです。

気持ちに気づくだけで、その気持ちは軽くなるという私たち人間の心の性質を知っておくことが大切です。