店頭販売主導から変われるのか

それでは未来の百貨店は、どうなっていくのだろうか。将来時点を2030年に設定し、時代に適応した百貨店のあり方をここに提示したい。

まず前提となるのはオムニチャネルだ。日常的なコモディティ商品はアマゾンなどで買われるにしても、ファッションなどの買回品に関しては、試着や相談を店舗で行うオムニチャネルに移行するといわれる。そこで先行し、発展する可能性を持つのは百貨店ではないか。店頭やネット通販だけでなく、店内催事や百貨店独特の訪問販売「外商」もある。販路がこれだけ幅広い小売業はほかにはない。百貨店はどうしても店頭販売主導になりがちだが、商品はネットでも外商でも売っていけばいいわけで、そこに発想を切り替えられるかどうかが鍵になるだろう。

そして既製品を大量に品揃え販売する従来の体制から、個別受注で製造し、オムニチャネルで販売する体制へ移行していくと予測される。衣料品ならITを活用して仕立てが早く、価格も抑えたオーダーメードシステムが登場している。ネット通販でも「ゾゾスーツ」のようなフィッティング機能もあるとはいえ、顧客への価値の見せ方、試着やコンサルティングなどの面では、百貨店のほうが断然有利である。

衣料品売り場は、コーディネート提案、顧客との相談やオーダー対応などができる必要最小限のスペースがあれば十分だ。そうなると今のように広いファッション売り場はいらなくなり、結果、百貨店の小型化が進むと考える。2万~3万平方メートルの規模が珍しくない地方の百貨店の売り場面積は、6000~8000平方メートル程度でも機能を果たしていくだろう。

さらに「地域商社化」の可能性があげられる。地域創生を掲げる政府が地域商社の設立を促すなか、地方百貨店は地元に詳しい人材の営業力・企画力、商品の魅力を顧客に伝えるノウハウを持っている。売り場縮小に伴って店頭の人材は、地場産品を開発・編集し拡販する営業担当者や地域ビジネスの企画推進者などに配置転換し、新たな戦力として役立てることも可能だ。たとえば新潟伊勢丹は、すでに「越品」というプロジェクトを立ち上げ、新潟県の地場産品を新しいデザインで販売している。こうした動向は今後増えていくと思われる。

また百貨店には、服の選び方や着こなしに詳しいスーツのバイヤー、新生活やギフトのしきたりなどに精通した社員など、知識や技術を備えたスター社員が存在する。彼らのノウハウを動画コンテンツとして配信すれば、新たな需要創造として期待できるし、販促にもつながる。ネットに商品情報が氾濫する今、「目利き」が商品を見極め、ニーズに応じた的確な商品選択をサポートすることは消費者にとって重要な価値がある。「生活のキュレーター」としての役割を強化すれば、ほかの小売店と差別化できるはずだ。

百貨店企業の多くは、もともと呉服店だった。それが約100年もの長い間さまざまな取り組みをして業態転換を経た結果、今の百貨店に至っている。それからすると現在の百貨店形態にこだわらず、時代に合わせて姿を変革できる百貨店企業は、これからも存続していくに違いない。

宮副謙司(みやぞえ・けんし)
青山学院大学大学院 国際マネジメント研究科 教授
慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程修了(MBA取得)、東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。西武百貨店、PwCコンサルティングなどを経て、2009年より現職。専門はマーケティング戦略、流通論、地域活性化論。
(構成=野澤正毅 写真=時事)
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