もはや形骸化した「紳士協定」

2018年9月3日、経団連の中西宏明会長が、就活ルールの廃止に言及した。現在の大学3年生が対象となる20年4月入社までは現行のルールを継続するが、21年4月入社以降はルール策定に関わらない、という意向である。さまざまな意見が出るなか、経団連によるルールは廃止し、政府と大学がルールをつくり、企業に要請する形で調整がなされる。選考解禁をこれまで通り6月1日とするスケジュールを維持する方針が固まっているが、広報解禁日、ルールの拘束力、破った企業への罰則などがどうなるか、注目されている。

まずは就活ルールの現状を把握しておこう。経団連が加盟企業に対して採用活動の日程などを定めた就活ルールは、さまざまな解禁日が設けられている。募集要項の開示、会社説明会などの広報活動は3月1日から、面接などの選考活動は6月1日から、内定は10月1日から。あくまでも紳士協定であり、加盟企業が守らなかったとしても罰則はなく、経団連に非加盟の中小企業、外資系企業、IT関連を含むベンチャー企業にとっては無関係だ。

策定されたのは、1997年。放っておくと早期化する就活スケジュールを遅らせるべく、これまで内容が何度か変更されてきた(表参照)。16年春入社には、学生の学業集中と留学生の就活という目的で、広報および選考解禁期間を遅らせたところ、採用活動が長期化。混乱を招いて1年で終了した。現行のルールは17年春入社から適用されている。

なぜ、経団連は就活ルールの廃止を望んだのだろうか。そこには「超優秀層の学生を獲得したい」という、大企業の本音がある。

優秀な学生を確保したいと考える企業は、他社に先を越されまいと選考の時期を早める。現在は多くの企業が、3月に入ると学生にエントリーシートの提出を求め、筆記テストを実施するなど、実質的な選考を開始。このため19年春入社の学生では、6月1日時点で全体の7割弱に内定が出ているという結果になった。内定を出す中には経団連に加盟している企業もある。

就活ルールの形骸化にさらなる拍車をかけるのが、学年の制限なく就業体験ができるインターンシップだ。文部科学省は「インターンと採用活動の直結は避けるべき」という見解を示しているものの、企業にしてみれば自社について知ってもらう絶好の機会であり、優秀な学生が来れば当然目をつける。つまり実質的な選考は、インターンシップの段階から始まっているのだ。