アメリカは110社、日本は4社
企業価値または時価総額が10億ドル以上となる未上場ベンチャー企業、または上場ベンチャー企業を2023年までに20社創出する――。18年6月に政府が発表した「未来投資戦略2018」でこのKPI(重要業績評価指標)が掲げられ、ユニコーン企業が注目を集めている。ユニコーン企業とは、評価額10億ドル以上ある、未上場の企業を指す。創業10年以内のテクノロジー企業が多く、ベンチャー・キャピタル(VC)の世界で、近年よく聞かれるようになった言葉だ。
「評価額10億ドル以上」については、説明を要するだろう。株式公開企業なら時価総額が「発行済み株式数×株価」で計算できるが、ユニコーン企業は未上場のため、将来のキャッシュフローを算出して、そこから現在の価値を割り引くDCF(Discounted Cash Flow)法を用いて計算する。つまり、企業の将来性を織り込んだ評価額になる。
なぜ政府はこのようなKPIを掲げたのか。今までは産業を育てれば全体が底上げされるという発想があったが、ITやバイオなどのビジネスは、勝って1を得るか、負けてゼロになるかという世界である。早く1になるトップ企業をつくり上げないと、国際競争力が弱まるという懸念があるのだろう。
そもそも、日本には世界で注目されるベンチャー企業が他の経済大国に比べて極端に少ない。アメリカには110社を超えるユニコーン企業があり、中国にも55社ある。アメリカのUber1社で時価総額が680億ドル(約7兆円)というから規模が違う。それに対し、日本で近年、評価額が10億ドル程度に達したベンチャーは、次の4社ぐらいだ。AI技術のプリファード・ネットワークス、衣服型ロボットのサイバーダイン、バイオベンチャーのペプチドリーム、そして18年6月に上場したメルカリ。これを20社まで増やして、世界と肩を並べようというわけである。
「2023年まで」というのは、遠からず近からずの適切な目標ではないだろうか。ITはじめテクノロジーのベンチャーは、創業から5年以内の株式上場を目標にしているところが多い。その成長スピードからすると、できたての会社でも可能性はある。
起業に失敗した者は、再起不能なのか
日本の産業界は、これまでにも何度かベンチャーブームを経験している。戦後の復興期にソニーやホンダが創業し、高度成長期からバブル期にかけては京セラや日本電産、ソフトバンクが登場した。今回のような政府主導のベンチャー育成はバブル崩壊後の1990年代に始まり、99年からのITバブルでは楽天、サイバーエージェント、DeNAなどが誕生している。当時のベンチャーは人手不足だったが、現在は大企業で働いていたエンジニアが参加することも珍しくなく、人材が流動化したというプラス面がある。