しかし海外に比較すると、日本はベンチャーが少なく、起業家が育ちにくい環境だといわれてきた。たとえば起業家が資金調達する場合、日本にはVCなどからのリスクマネーの供給が少ないという指摘がある。2017年、日本におけるVCによるベンチャーへの投資額は、約2000億円弱。しかし中国は3兆円、アメリカは9兆円を超えている。日本でも投資額が増えてきているとはいえ、中国やアメリカと比べれば、上昇カーブは緩やかだ。
ただし、ビジネスモデルがしっかりしたベンチャーがあれば投資したいと考えているVCや、事業会社が設立したコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)は少なくない。潤沢とまでは言わないが、それなりにリスクマネーは供給されていると言えよう。
そこで問題になるのは、VCやCVCの担当者の経験であり、能力だ。前述したようにユニコーン企業を評価するDCF法は、将来性を見抜く力が必要とされる。またVCやCVCは投資するだけでなく、経営指導しながら一緒に会社を大きくするパートナーであることも求められる。その能力がある者を、今後もっと増やさなければいけないだろう。
さらなる問題が、起業家を目指す人が圧倒的に少ないということである。もし大企業を辞めて起業すると言い出せば、身内や周囲の人たちから反対されるに違いない。学校教育では起業家になるための勉強はなく、「将来なりたい職業」のアンケートでも、起業家の順位は決して高くないのが現状だ。
ましてや日本では、起業に失敗すると再起不能になるというイメージが強い。個人保証で家を取られ、個人破産したという噂がよく聞かれる。これは資金調達の中心が長らく銀行融資だったせいだ。最近では増資による資金調達が増えており、このような個人破産に至ることは非常に少ない。アメリカなどは、初めからVCなどのリスクマネーで資金調達する。失敗すれば出資者に損をさせるものの、借金ではないから個人破産には至らない。
そのアメリカでは失敗を経験しても、「よく挑戦した」と称賛され、1度も起業したことがない人よりも、2度目、3度目のチャレンジというほうが、「2度と同じ轍は踏まないだろう」と評価される。日本では1度失敗すると「もうおしまい」と烙印を押される風潮だ。これでは起業家はなかなか生まれない。ベンチャー企業が3年後に生き残っている確率は30%、5年後の生存率にいたっては、わずか5%と言われる。たった一回の挑戦で成功するのは、奇跡的と考えたほうがよいのである。