この10年ほど、JR各社は流通事業に力を入れ、地方中核都市で大型駅ビルを次々と開業してきた。駅ビルには衣料品店や飲食店が充実し、さらに「駅ナカ」では食料品を展開する。地元そっちのけの“JRファースト”で乗降客を駅ビルに誘導し、囲い込むのだから、周辺の商業施設はたまらない。私の見たかぎり、天満屋福山店(広島県)、ながの東急百貨店(長野県)などは、駅ビルの影響を受けてレストラン街が歯抜けになり、お土産が売れなくなって勢いを失っている。今までJR東日本の取り組みが目立ったが、これからJR西日本やJR九州も駅ビルを強化していけば、より多くの地方百貨店がダメージを受けるだろう。

盛り返す百貨店は、3つのタイプがある

とはいえ、百貨店は暗い話題ばかりではない。阪急うめだ本店、あべのハルカス近鉄本店、ジェイアール名古屋タカシマヤといった旗艦店は、大規模改装で支持を集めている。そして17年の百貨店の売上高は、新店を含んだ全体ベースでは対前年比0.4%減だったが、既存店売上高の対前年比は0.1%増。チェーンストアが0.9%減、コンビニエンスストアが0.3%減という数字と比べると、百貨店へのニーズが底堅いことがわかるだろう。

また高度経済成長期や1980年代に、百貨店業界は他店の真似をすれば業績が伸びる時代を経たせいか、長らく十把一絡げの横並び主義が続いていた。それがここ5年ほど、大手は独自の経営戦略を打ち立てるようになった。

ひとつはJ・フロント リテイリング(大丸松坂屋百貨店)などに見られる「テナント型」。東急ハンズやニトリなど、外部に空間を貸して、安定した家賃収入を稼ぐ。エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急阪神百貨店)は、「イベント型」だ。「コトコトステージ」といったイベントや催事で集客を図り、ファンを獲得・定着させていく。そして三越伊勢丹ホールディングスの伊勢丹は、商品の独自仕入れ・売り場の自主編集に長けており、百貨店としては最も正統的な「MD型」といえよう。

そしてこの3タイプを、最もバランスよく兼ね備えているのが高島屋である。関東と関西に旗艦店を持ち、MDにも催事にも強い。ショッピングセンターの運営も、百貨店の中で最も実績がある。さらにシンガポール、ベトナム、タイなど海外事業も着々と拡大している。競争力は堅実といえよう。経営環境の変化についていけない百貨店は淘汰されても、戦略を打ち出して個性化を進めた百貨店は生き残り、勢いを盛り返すはずだ。