実効性の高い規制とは何か
さらに産経社説は法規制の限界について、こう触れている。
「自殺願望の書き込み自体は犯罪行為に当たらず、法的な規制には限界がある。事業者もそれぞれ、監視体制を構築するなどの対応を進めているが、隠語使用などの抜け道に対し、いたちごっこが続いているのだという」
このあと産経社説は「ネット空間には多くの悪意が漂っていることも深く自覚すべきである」という結論に向かって、「問題は『自殺願望』だけではない。警察庁によれば、今年上半期にネット上のコミュニティーサイトを通じ、強姦や児童買春などの被害に遭った18歳未満の子供は過去最多の919人を数えた」と被害が増えていることを印象付け、「国も事業者も、より実効性の高い規制のあり方を考慮すべきだ」と主張を展開している。
たしかにネット空間に悪意が潜んでいるのは事実だろう。だが、その悪意からどうやって身を守ればいいのだろうか。その対策は産経社説がいうように「より実効性の高い規制」でいいのだろうか。それは具体的にどんな規制なのか。
最後まで読んでも、産経社説の「悪意を放置していいのか」という見出しの意味はよく理解できない。
自殺願望の「感知システム」を急げ
数十年前の事件記者時代、沙鴎一歩は子供と自殺に興味を持ち、警察が子供の自殺を発表するたびに、その子供の親や学校の担任教師への取材を重ねたことがある。
一連の取材で感じたのは、自殺者は心のどこかで助けを求めている、という事実だった。当時、インターネットなどはなかったが、ネット上に自殺願望を書き込む人たちも、だれかに助けてほしいという気持ちがあると思う。
今回の事件が、自殺願望のある人をだましたものだとすれば、そうした事件に巻き込まれることがないよう、近くの人がその気持ちをできるだけ早い段階に察知することが肝要だ。
国や自治体、それにネット事業者が協力して、ネット上の自殺願望を感知し、効果的なケアのできるシステムを構築していくべきだろう。助けを求めている人が、悪意にさらされることがあってはならない。