足がつかないよう少額の犯罪が急増

「たった今、1万円の買い物を5回しましたか?」

見慣れない番号表示を不審に思いながら携帯を取ると、なぜかひそひそ話す男性の声。オレオレ詐欺の類いかと思ったら、相手はカード会社であった。たった今? これこの通り、会社のデスクにへばりついて仕事をしている。ショッピングなどするはずがない。そう答えると、あるショッピングサイト上で自分名義のカードによる注文が5分以内に5回連続してあったという。総額5万円。「クレジットカードが誰かに不正利用されていますね」。すぐにカードの利用停止を申し入れたが、にわかには信じがたい。自分がカード犯罪の被害にあうなんて。

某日、弊誌編集部であった実話である。日本クレジット協会の調べによれば、平成24年からここ数年、カード犯罪は増加傾向にある。平成24年には約68億円だった被害額が、平成27年には約120億円とほぼ倍増。これは「番号盗用」と呼ばれる手口により被害が増加したものと考えられる。

カード犯罪にはおもに「番号盗用」と「偽造カード」の2つの手口がある。15年前までカード犯罪は、偽造カードによる手口が、過半数を占めていた。しかし、平成1 3年に刑法が改正され、偽造カードを処罰する法律が施行されると、その数は激減。代わって主流となったのが、番号盗用というわけだ。

番号盗用とは読んで字のごとく、カード番号と有効期限を盗み取り悪用するもの。偽造カードと違って、ほぼ100%がインターネット上での被害である。不正利用者は、他人のカード番号と有効期限をECサイトに入力し、カードの持ち主になりすまして買い物をする。インターネット取引は販売店員が介在しない「非対面取引」であるため、なりすましであっても怪しまれることはない。宝飾品、時計、チケット、家電製品など、換金性の高い製品を買い漁り、すぐさま転売、現金化するのが彼らの手口だ。最近では特に、電子チケットや電子マネーといった「無形のもの」が好まれるとか。購入から受け取り、換金までネット上で完結できるので足がつきにくいからだ。

昨今の手口にはもう一つ特徴がある。それは「少額」だ。クレジットカードの不正使用といえば、宝飾品や時計など高額商品のイメージがある。しかし、今回買われていたのは、約1万円の商品。これはどういうことか。

クレジットカード犯罪に詳しいITジャーナリストの三上洋氏によると、「今後はむしろ少額の詐欺が増えていく可能性がある」という。クレジットカード犯罪が身近になってきたとはいえ、毎月の明細書にきちんと目を通す人は少ない。しかし、何十万も引き落としがあったらどうか。さすがに不審に思い、明細書を調べるだろう。

また、少額であればカード会社の監視の目をかいくぐれる可能性もある。実はほとんどのカード会社が犯罪を水際で防ぐべく、さまざまな工夫をしている。代表的なのが行動分析。日常からカード保有者の行動を分析し、「東京在住なのに沖縄でパソコンを買った」など、通常のパターンから逸脱した買い物があれば持ち主に確認を入れる。しかし、1万円、2万円といった少額になると、こうしたカード会社の監視の網をかいくぐる可能性が高い。