相続の準備はいつから始めればいいのか。金融教育家の上原千華子さんは「親が80代になってからお金の話をすると苦労する。通帳や保険の内容を本人が把握している60~70代前半に相談し始めたほうが良い」という――。
リビングルームで木のブロックで遊ぶ多世代の家族
写真=iStock.com/Yagi-Studio
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親の通帳、実家のどこにある?

年末年始、久しぶりに実家に帰り、両親の元気な姿を楽しみにしている方も多いのではないでしょうか。実家に帰ると、昔と変わらない食卓や、ほっとする空気がありますよね。一方で、親の背中が小さく見えたり、病院や薬の話が増えたりして、「そろそろ、親のお金のことも考えたほうがいいのかな」と感じる瞬間もあるかもしれません。

相続のニュースはよく目にしますが、実際には介護や入院のお金で慌てるケースが少なくありません。「通帳がどこにあるか分からない」など、親のお金が見えないまま、介護や相続の局面を迎えてしまうご家庭も多いのです。

私たちは、どのタイミングでどのように親とお金の話を始めればよいのでしょうか。

今回は、帰省時にチェックしておきたい「親のお金」のポイントと、角が立たない尋ね方をお伝えします。

「80代になってから」では正直しんどい

親のお金のことは、「まだ元気だから」「話しにくいから」と後回しにしがちです。しかし、図表1の認知症有病率を見ると、先送りにもタイムリミットがあることがわかります。

【図表1】認知症有病率(男女別、年代別)
出典=朝田隆ほか「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応 平成23年度~平成24年度総合研究報告書」(厚生労働科学研究費補助金認知症対策総合研究事業)2013.3、p.72 を基に筆者作成

認知症有病率は、65〜69歳では数%台ですが、75歳以降急増し、80〜84歳では女性の4人に1人、男性の6人に1人と推計されています。健康寿命も男性72.57歳、女性75.45歳(厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」より)で、70代半ばから認知症や介護・入院のリスクが一気に高まります。

この段階でお金の話を始めても、うまくかみ合わず、家族は手探りでお金の全体像を探ることになります。銀行が本人の判断能力の低下を疑うと、口座凍結のおそれもあります。

80代でお金の話を始めて大変だった事例を2つご紹介しましょう。(実例をもとに、一部内容を変更しています)