「会議をしても結局、何も決まらない」「参加者がほとんど発言しない」……。そんな悩みをよく耳にします。重要なビジネスの判断が次々と決まっていくような会議をするには、いったい何が必要なのでしょうか。ビジネス会話の達人である澤円さんは、「報告・連絡」を事前に済ませて、会議では未来につながる「相談」をすればいいと言います。

会議は「未来につながる話」を議論する場

仕事ではよく「報・連・相」が大事だといわれますが、本来、会議や打ち合わせはなんのためにやるのかというと、報告や連絡のためではなく、「相談」のためにやることだと僕は考えています。つまり、会議の事前準備というのは、報告と連絡を事前に済ませておくということです。

報告や連絡は、「過去の出来事」を対象にするため、それについては事前に認識・共有した状態で会議に臨むことができるはずです。過去に起きたことを、わざわざ会議の時間をつくって共有するのは、単なる時間とエネルギーの無駄といえるでしょう。

かつて僕が勤務していたマイクロソフトには、「ミッドイヤーレビュー」という会議がありました(2016年度から撤廃)。これは世界13地域の経営層が出席し、上半期の事業成果報告と下半期のビジネスプランを徹底的に話し合う、もっとも重要かつ過酷な会議とされていました。

この会議では、中間決算をはじめ報告や連絡に関する情報はすべて、会議の24時間前までに全社共通のテンプレートで共有するのがルールでした。そして、そこに表現しきれない「未来につながる話」を会議で徹底的に議論するのです。

そのため、会議がはじまった瞬間から質疑応答の連続で、説明などのプロセスはほとんどなかったといいます。「この資料の該当箇所は来期どうなるのか?」「どのようにプロセスを改善していくつもりなのか?」というように、まさに未来の“相談事”だけが質疑されていき、会議後はすぐアクションに移せる状態になることを目指して進められていました。

そのような状態をつくるためには、会議のなかで、アクションのための相談事にほぼ100%を使うことが必要です。だからこそ、報告や連絡にあたる部分を担保する事前準備も大切になるわけです。

アクションに必要なのは「許可」ではなく「結果」

ただ、たとえ会議を未来の“相談事”のために使ったとしても、うまくアクションにつなげられない場合もあります。それはおそらく、アクションに移すことに対して、許可を得なければならないと思い込んでいる人がいるからではないでしょうか。

僕はかつてマイクロソフトで外国人のマネージャーともよく仕事をしていましたが、よく彼ら彼女らはチームメンバーに対して、「これを述べていいか、あれを送っていいか、これをレビューしてほしいなどと、なぜわたしにいちいちプロセスを確認するのかがわからない」と、純粋な疑問として口にする人が結構いました。

ある案件を任せた時点で、すでにその案件のリーダーは決まっているのだから、好きにアクションすればいいという意味です。「わたしが望んでいるのはアクションがわかる状態にしておくことと、その結果のみだ」とよく言っていました。

この考え方は全社でも徹底されていて、たとえばある営業活動において、顧客の窓口となるアカウントマネージャーがいるならば、その顧客とのビジネスに関しては、そのアカウントマネージャーがいわば“最高責任者”としてみなされていました。要するに、自分が責任を有する仕事の範囲内では、日本法人の社長も含めて、すべてを「リソース」として扱うことができるのです。

もちろん、社長はかなり希少性が高いリソースですから、相当程度のことがない限りは切れないカードだといえます。それでも、自分が担当する仕事の「ここぞ」というタイミングで使えるリソースとして考えられていたのです。

失敗を恐れすぎるからアクションに移れない

もしかしたら、日本企業で働くビジネスパーソンのなかには、こうした責任範囲の考え方に違和感を覚える方もいるかもしれません。でも、これは「やってみる」という意思さえ持てれば、誰にでもできることだと僕は思います。

もっと言うと、もしいまチームを抱えている人であれば、メンバーに大きな責任を与えて、好きにやらせる勇気を持つことも大事なことです。

やらせて失敗するかもしれないけれど、最終的には自分が謝ればいいと思える勇気――。失敗をすると取り返しがつかないと思いがちですが、取り返しがつかないことなんて、そうそうあるものではありません。多くの場合、ただ失敗を恐れすぎているから、未来につながるアクションに移れないだけのことではないでしょうか。

また、転職をつねに選択肢のひとつとして持っていると、うまくいったのに評価されない場合に、ほかの場所で頑張ろうと考えることもできます。そもそも会社にとって素晴らしいことにチャレンジしているのだから、もし評価につながらないのなら、そこは自分がいてはいけない場所だと捉えることもできるでしょう。

「スキル」と「権限」を持つ人が会議に参加しているか?

会議は報告や連絡でなく、「未来につながる話(相談)」のために行うと述べてきました。そうした本来の意味での会議では、必然的にビジネスのアイデアが次々と生まれます。

もうひとつ、アイデアが生まれる会議の前提条件があります。それは、参加者それぞれが「自分の得意なこと」を持ち寄って、自分の仕事(職務)に集中し、その立場からの専門的な意見を提示できる場であることです。

たとえば、ある営業会議にファイナンスの担当者が出席するとします。議題として、あとひと押しすれば契約できそうな、でも事前にサービスのテスト期間を設けたいと望む顧客がいるとしましょう。そんなプランは用意していませんが、その条件を満たせれば複数年契約を取れそうな場合です。

このとき、ファイナンスの担当者が事前に報告・連絡事項を理解し、追加の投資とリターンを正確に見積もることができていれば、会議の席に着いた瞬間に、「どの程度の投資が可能なのか」と話を具体的に進めていけます。

それはまさに、その担当者が得意なこと、つまり投資判断ができるスキルと、その権限を持っている状態で席に着いているからです。

このようにアイデアが生まれる会議は、それぞれが自分の得意技を、明確な判断ができる状態で持ち寄れる場のことなのです。会議が進まないと悩んでいる人は、その会議の議題において、そもそもアクションするスキルや権限がないのに参加している人がいないかどうか、いま一度見直してみてください。

「やらなかった者が損」というマインドを持とう

最後に、会議で未来につながる話をすることをすすめると、必ずといっていいほど、「うちの会社は発言した者が損をするからしたくない」などと及び腰になる人がいます。比較的若手に多いのですが、中堅のビジネスパーソンでもちらほら見かけます。

僕はそんな人には、いいアイデアを実行できるかもしれないのだから、「言ったなら君がやって」と言われたら、むしろ張り切ってやれるチャンスですよとお伝えしています。言ってもやらせてもらえないほうが、毎日同じ仕事の連続になって損だと考えを変える必要があるでしょう。

仕事が増えて忙しくなってしまうと不安になる人もいます。でも、もしそれをやれば自分や会社にとっていいことが起きるのなら、いままでやっていた仕事で成果が乏しい一部について“相談”し、手放せばいいだけではないでしょうか?

ある仕事をやることで起きるいいことをチームの合意事項とし、ほかの仕事を手放してでも新しいアクションへとつなげていく。未来の可能性へとつなげていくには、そんなシンプルな思考が欠かせないのです。

(構成=岩川悟、辻本圭介 図版作成=佐藤香奈 写真提供=株式会社圓窓)