「あなたの話をしっかり聞く」という態度を伝える
相手の話をきちんと「聞く」ためには、まず「わたしはあなたの話をしっかり聞きますよ」という態度を、相手に伝えることが必要です。
なぜなら、相手が話すことを受け止めるという、“心理的な契約(約束)”がなければ、相手はあなたに対して心理的なガードを下げてくれない場合があるからです。
そのためには、まずあなたから「自己開示」をする必要があります。いったいどのようにすればいいのか? 僕がかつてマイクロソフトでITコンサルタントをしていたときに、よく使っていた台詞を紹介しましょう。
僕は顧客と名刺交換をする際に、必ず「わたしはあなたを幸せにするためにやってまいりました」と伝えていました。「あなたがハッピーになるために来たのだから、どうぞ何でも相談してください」と、オープンマインドで接するようにしていたのです。こんな台詞をアイスブレイクもかねて伝えていました。
すると相手は、たいてい「ずいぶん大きく出ましたね!」などといって笑われます。でも、その時点で、相手は少しだけ、「そこまで言うのなら、何か相談してみるかな」という気になっているものなのです。
いわば、相手の背中をこちらから少し押してあげるイメージでしょうか。
名刺を見れば、自社のITシステムをよくする提案のために来たことはあきらかです。だからこそ、それについてはひとことめで語らず、ただ「わたしはあなたの力になりますよ!」と、自信を持って言い切ってあげればいい。そんなシンプルな「自己開示」をするだけで、相手はぐっとあなたと話しやすくなります。
「この人なら相談できる」と初対面で思わせる
僕のやり方は、顧客とビジネスの関係性を築くときの正式な話し方ではないかもしれません。でも、「初対面ではこうすべき」という話し方のルールや常識にとらわれていては、いつまで経っても相手と深い信頼関係を構築することはできません。
何より大切なのは、第一印象で「この人なら相談できそうだ」「この人は話をわかってくれるかも」と、相手に感じてもらうことではないでしょうか。
たいていの場合、相手の職業から、その期待値はある程度は固まっているものです。ラーメン店でピザを頼もうとする人はいないのと同じで、少なくとも名刺交換をした時点で、相談するテーマや内容はある程度決まっているでしょう。
つまり、すでにそこまでの関係性ができているにもかかわらず、「わたしはITコンサルタントという仕事をしていまして……」「御社にはいまどんなITの課題が……」などと会話をはじめるのは、ちょっと間が抜けている感じがしませんか?
いざ仕事となると、「鎧」を身にまといすぎてしまうビジネスパーソンが多いように思えます。「変な印象を持たれてはならない」「弱みを見せてはつけ込まれる」などと、勝手に身構えすぎてしまうわけですね。
この「鎧」は、暗黙のルール、社会人の常識、業界のあたりまえ、と言い換えてもいいでしょう。
実に多くのビジネスパーソンが、わざわざ重い「鎧」をまとって、自ら悪戦苦闘しています。ふつうに考えて、そんな自分のことばかりを考えている人に、「大切な相談をしたい」などと思うでしょうか?
そうではなく、相談しやすい人というのは、初対面で「この人なら!」と思わせてくれる人なのです。そのために、自分が貢献できることに対して自信を持ち、それを素直に「自己開示」していく。そうして相手が主体的に話しやすくなる環境を、初対面からきちんと用意してあげることが大切なのです。
相手の興味が持てるポイントを積極的に探す
ここまで述べたことを前提にしたうえで、「聞く力」について考えます。結論から言うと、「聞く力」を高めるには、何より、「相手や相手が話すことに対して興味を持つ」ことに尽きます。
そういうと、マインド面のあり方や考え方のように思えるかもしれませんが、これは脳内での具体的なアクションです。つまり、相手に興味を持てるポイントを「積極的に探す」ということです。
相手に興味が持てなければ、自分のアンテナは相手に向かわず、会話はいつになっても噛み合いません。自然体のままでいて、どんな相手にも興味を持てる人はきっと稀でしょう。むしろ相手に興味を持てるポイントを、自ら能動的に探していかなければ、会話のアンテナも立たず、会話自体もなかなか成立しないものだと知ってください。
具体的なコツとして、相手の話に寄り添いながら、その都度シンプルに質問を重ねていく方法をおすすめします。
「この部分のプロセスが問題なのですか?」「こうなるといいと思いませんか?」などと、相手と合意できる事項を、少しずつ積み上げていくイメージです。ただうなずきながら話を聞くことが、相手への興味を示すわけではありません。それでは、相手に対して「同意」しているだけです。
そうではなく、「合意」を積み重ねていくことが「聞く力」の本質なのです。
ちなみに、共通認識を持てる話の材料をあらかじめリサーチしておくと、安心して質問を重ねていけると思います。相手の会社のパーパスやビジョンを題材にして、質問をしていくのもいい手です。
それらの質問によって、相手のパーパスやビジョンに対する実感や、現状とのギャップが少しずつ見えてきます。そのギャップを掘り下げれば、見えない「課題」に気づきやすくなります。そうして、より生産的な会話をすることができるはずです。
「意見が一致しないこと」に合意する
会話をしていると、相手と意見や考え方が合わないこともでてくるかと思います。そんなときに知っておいてほしいのが、「Agree to disagree(意見が一致しないことに合意する)」という姿勢です。
特に日本人には、意見が一致しないことに対するアレルギーが強い面があり、ついその場を取り繕ったり、ごまかしたりして、結果、相手との信頼関係をつくれないことがよくあります。
ですが、意見が一致しないことと、仕事で結果を出すことは分けて考える必要があります。
たとえ相手と意見が合わなくても、ビジネスにおいて顧客やユーザーを幸せにしたり、売り上げをアップさせたりする必要性は変わりません。そんな目指す方向性があるならば、意見が合わないことがボトルネックにならないように努力をするのが、ビジネスパーソンたる姿勢です。
もし話が合わないことで仕事が進まないのなら、別の人が話をすることで解決できる可能性があります。たとえば、チームメンバーがどうしても相手と合わないのなら、会話をする相手を変えるのは仕方のないことですし、それもまた戦略のひとつでしょう。
大事なのは、わかり合えないことはまったく不思議なことではなく、十分起こりうることで、それ自体を深刻に捉える必要はないということ。ビジネスパーソンのみなさんに、ぜひ知っておいてほしいことのひとつです。


