小学生の計算ドリルで脳の瞬発力を取り戻した
私は37歳で、医学部を受験しようと決意しました。仕事との両立に苦労し、本格的な勉強に踏み出せずにいた時期もありましたが、42歳で退路を断ち、真正面から受験に向き合いました。そして一昨年、45歳で念願の医学部に合格。現在は20代の若者たちと机を並べ、夢の実現に向けて勉強に励む毎日です。
京都大学農学部に在籍していた20代の頃は学業に身が入らず、予備校講師で資金を貯めて起業し、国内外でスパや飲食の事業を展開しました。中でも力を注いだのが、バリ島の森の中に構えたスパ・リゾートでした。
観光客が日常を離れてリラックスできる施設として運営していましたが、ときどき、都会の生活で心身をすり減らしメンタルを病んだ方が、数カ月単位で滞在されることもありました。毎日顔を合わせ、話を聞き、施術やヨガなどのサービスを提供するなかで、すっかり元気を取り戻し、帰国されるお客様も少なくありませんでした。
経営者として喜びを感じる一方、科学的な裏づけのないアドバイスをしてはいけないという思いも強くなりました。専門医と協力してビジネスを拡大する道も探りましたが、パートナーとして対等に接してもらえない現実もあり、自分自身が資格と知識を身につける必要性を感じるようになりました。そうして37歳で事業を売却し、医学の道へ進もうと決めたのです。
再受験を決めた私は、まず予備校講師になりました。過去の経験から「教えることが一番の勉強になる」ことを知っていたからです。担当教科は、医学部の試験範囲とも重なる「生物」。他人に教えるには自分自身が知識を整理し、深く理解する必要があります。仕事として出題傾向の分析や受験情報の収集もでき、収入を得られます。
英語と国語は、ビジネスで書いたり話したりしてきたぶん、学生時代よりも力がついていた感覚がありました。最大の壁は数学です。情報処理の速度や瞬発的なひらめきが、驚くほどに落ちていました。子どもの運動会で久しぶりに走ると、思うように体が動かない感覚に似ています。そこで、朝起きてはじめに、中学受験用の計算ドリルを繰り返し解いて、頭の回転を取り戻すトレーニングを続けました。
しかし、気がつけば予備校講師の仕事が本職のようになっていました。講義の準備に追われ、自分の勉強に割ける時間と労力が圧倒的に不足していたのです。全国模試を受けると生物と化学は偏差値80を超えていましたが、英語と数学は60前後。これでは国立大学医学部ではA判定に至りません。
ユーチューブ開設で学習時間を確保できたワケ
ここで行動を変えなければ、手遅れになる――。そう考えた私は予備校の講義を大幅に減らし、1日8時間の勉強時間を確保しました。同時にユーチューブチャンネル(ビリおじチャンネル)を立ち上げ、顔と名前を全世界に公開して、「医学部合格を目指す」と宣言しました。
自分が黙々と勉強する様子を配信するだけですが、実際にやってみると、驚くほどの効果がありました。スマホをスタンドに固定して配信するため、勉強中は着信があっても手を伸ばせません。配信の際にはカメラの前に大きなタイマーを置きました。これは25分勉強して5分休む「ポモドーロ・テクニック」を実践するため。効果は絶大で、このペースを守れば何時間でも集中して勉強を続けられました。最長19時間、連続配信をしたこともあります。
勉強の量を増やし、質を高めるために、スケジュール管理から進捗・達成度の記録まで、エクセルを活用しました。1カ月分の学習計画を立てて毎日の勉強時間を確保し、いつ、どの問題を、何分何秒で解いて、何点取れたかを詳細に記録します。問題を解いて答え合わせをして終わりにせず、数日後・数週間後に同じ問題を解き直し、正答率が上がっているか、タイムが短縮できているかを検証しました。
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