自ら筆を執った「負けられない戦い」
“大企業病の打破”を前面に押し出す前川。相模原のトップに就任してから実行したことが、部長、課長の意識を徐々に変えていく方針を明確にしたことだった。
「部長クラス以上はすぐにわかってくれるんですよ。彼らは“経営者”ですからね。問題は課長クラスです。課長は、全部で900人位いますが、末端まで意識を浸透させるのはなかなか難しいです」
前川が考え出したのが、課長15人程度を集めて、研修所に1泊して徹底して議論し続けることだった。お互い腹の中を見せ合う“意識改革”の研修である。
戦々恐々と参加する課長たちに対して、前川は事前に1冊の本を渡していた。ベストセラーとなった『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建著)である。前川は、「課長1人ひとりに、自分のストーリーを作れるようになってほしかった」と語る。その一方で、前川は研修ではそうした自身の思いをおくびにも出さず、課長たちを挑発し続けた。同書を読んで、自分の考えを発表する課長に向かって、前川が関西弁でまくしたてる。
「おまえ、どう考えとるんや。俺には全然わからんぞ」
怯む課長にも、前川は容赦はしない。
「そんなことやっとると、おまえの事業はなくなってしまうぞ。それでええんか」
意識改革研修ではない“洗脳合宿”と多くの参加者が苦笑するように、合宿の効果は如実に表れた。
「この研修に参加してから、これまで事業に対して非常に消極的というか、保守的だった空気が一変した」
と、研修に参加した課長たちは、語る。
2年連続の巨額赤字の前に、「正直に言って何をやってもダメかもしれない。今年もダメかもしれない」という“負け犬根性”が、蔓延していたのは事実だ。
関西弁で機関銃トークを炸裂させる前川は、相模原の細かい部分に目を凝らし、社員の表情の変化にまで目を配る。