ついに化学メーカーの逆襲が始まった。リチウムイオン電池部材、太陽電池、LEDなどの新事業、M&Aで、攻める老舗企業。今回の大胆な人事交代で描く世界戦略とは……。
「バブル経済以降の経産省の経済、産業政策は間違いだった」
こんな書き出しで始まる経済産業省の「産業構造ビジョン」が打ち出されたのは2010年の2月。日本の産業の行き詰まり、深刻さを受けて新しい日本の産業の姿について提言されたものだ。
伊藤元重(東大大学院経済学研究科教授)を部会長にして、小島順彦(三菱商事社長)、大坪文雄(パナソニック社長)、長谷川閑史(武田薬品工業社長)、西田厚聰(東芝会長)といった財界の大物経営者など、多士済々のメンバーが集められていた。
何回目かの会合で「ゆでガエル」という言葉が議論に上った。熱湯にカエルを入れると驚いて、飛び跳ねて逃げるが、常温から徐々に温められたカエルは、その心地よさからじっとしている。そして高温に達したときには、カエルは逃げる余力を失い、死んでしまうというものだ。
「ゆでガエルにならないためにはどうしたらいいか」
ある委員の問いにすぐさま返答した委員がいた。
「蛇を投げ込めばいい。一瞬にして目覚め、逃げますよ」
こう、答えたのは、小林喜光・三菱ケミカルHD(以下ケミカルHD)社長である。小林の歯に衣着せぬ発言は、産業競争力部会を大いに活性化させた。