今回発表された、会社の枠組みを超えた大胆なタスキがけ人事。この組織を停滞させず、活性化へと導こうとする決断は、社内のみならず業界全体を驚かせた。

三菱ケミカルHD社長 小林喜光 こばやし・よしみつ●1946年、山梨県生まれ。71年東京大学理学系大学院相関理化学修士課程修了。72年へブライ大学物理化学科、73年ピサ大学化学科に留学。74年三菱化成工業(現・三菱化学)入社。96年三菱化学メディア社長、2005年本社常務執行役員などを経て、07年から現職。

「社長業の7割は、人事じゃないのかな。少なくとも私は、いつも人事のことが頭から離れない」

小林喜光は、人事重視の経営を隠さない。石塚博昭、越智仁の2人の経歴を分析してみると、今回の人事の要諦、小林の目指す将来の組織が重なってくる。

ケミカルHDの屋台骨である三菱化学の次期社長に決まった石塚博昭。

「僕は社内で人の二番煎じをやったことがないんですよ」

と言うように「ゼロ」からの立ち上げを数多く経験している。

石塚は、1972年に東京大学理学部化学科を卒業し、旧三菱化成工業(現三菱化学)に入社。配属された部署は知的財産部で、花形部署のスタートではない。

2年目には、新しい高機能樹脂、エンプラ(エンジニアリングプラスチック)を扱う新設部署に異動し、営業も経験する。毎日のように電話帳、会社四季報をひっくり返しては、取引してくれそうな会社に目星をつけて電話をかけ、脈がありそうな会社には飛び込んでいった。

大手企業の社内の慰労会があると聞けば、呼ばれなくても参加し、担当の部長が温泉に入るのを見計らっては、率先して背中を流すことまで行い、新規のマーケットを開拓していく。24歳のときだ。