無駄なものを省き、今まで見えていなかった客を見えるようにして、“相模原時間”の針を早送りさせてきた。「客のニーズに応えろ」「スピードを上げろ」「まずは実行しよう」。ワンフレーズで目標を掲げ、自ら現場の最前線に立ち、客を訪ね歩く前川の姿が至る所で見受けられ、徐々に現場の空気が変わってきた。

「やっとこれで普通に近づいた」。茹でガエルのようになっていた相模原を揺り起こして、覚醒させた前川。ではなぜ前川は、執念を持ってやり続けるのか。

前川が、入社以来一身を捧げ続けてきたガスタービンの開発は、「技術者には究極の目標」とも言われている。

ガスタービンの構造は、航空機のジェットエンジンのそれと変わらない。しかしながら、発電所、大型プラントなどに使用されるガスタービンは、短期間の出力だけが求められるジェットエンジンとは異なる。ガスタービンは、常時1400度以上の高温下で24時間、365日稼働し続ける“耐久性”が不可欠なため、より高い安全性、完成度が求められる。しかも、世界各国で異なる客のニーズに合わせるため、日々、改善の連続である。

前川にとって、製品、商品を客に売る、買ってもらうというのは、そういうことだ。“前川の改革”の成果で、相模原における2年連続の巨額赤字は解消された。11年度に営業損益は黒字化に成功し、12年度は100億円超の黒字へと転換する見込みである。相模原には、トップイーストリーグに所属するラグビーチーム(三菱重工相模原ダイナボアーズ)がある。ラグビーのポスターに、前原自ら筆を執ったキャッチフレーズが書かれている。「負けられない戦い」。前川は、今年4月1日付で、副社長に昇格した。

(文中敬称略)

(的野弘路、松隈直樹=撮影)
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