給料袋のデザインが違う
会社全体の総合力を高めるための風土改革を進めている。三菱重工業は航空機や船舶から冷熱まで、多様な事業分野を持つことが強みである。それぞれが独立すれば10~20社の上場企業群ができるといわれるほどだ。
しかし逆にいうと、各事業部門が部分最適を追求してしまえば効率は落ちる。そこで、技術本部やものづくり革新推進部といった専門組織を設置し、シナジー効果を発揮するように努める一方、私自身が文書やスピーチなどを通じて、しつこいくらい何度も改革の必要性を説いている。
そのときに必ず披露するエピソードがある。2002年、慣れ親しんだ航空宇宙事業本部から冷熱事業本部へ異動したときのことだ。驚いたことに、給料袋のデザインが違っていたのだ。
三菱重工は戦後の財閥解体で3社に分割されたあと、再合同を果たしたのが1964年。6年後には新従業員制度が発足し、給与体系などはそのときに一本化されたはずだった。
ところが現実には、給料袋ひとつとっても部門間に違いがある。当社は利益率が高いとはいえないが、原因のひとつはこうした事務の重複、非効率にあった。その後、子会社を設立して全社の給与計算を集約したところ、人員はなんと3分の1に収まった。
風土改革の必要性を説くときには、こういったエピソードが必要だ。トップが理念を語ることは大事だが、それだけでは受け手である社員たちは納得しない。納得しなければ動かない。
大切なのは、わかりやすい論理の筋道(理念)と、それを支える現場の事例とをセットで伝えることだ。目に見えるエピソードを差し挟むことで、誰もが問題点をイメージしやすくなるからである。