僕がP・F・ドラッカーの『現代の経営』を初めて読んだのは慶応大学2年生の頃だったと思う。新聞の広告か書評を見て購入した。

キッコーマン会長
茂木友三郎

1935年、千葉県生まれ。慶應義塾大学法学部卒。58年野田醤油(現キッコーマン)入社。61年米国コロンビア大学経営大学院修了。海外事業部長、社長などを経て、2004年より現職。著書に『「醤油」がアメリカの食卓にのぼった日』『キッコーマンのグローバル経営』など。

当時の経営学は、いろんな学者の説を羅列するだけのまことに面白くない学問だった(苦笑)。しかし同書を一読して感激した。企業の経営というものを、読者が興味を持てるように工夫しながら、非常に面白く書いてあるのだ。経営にはこういう捉え方があるのかと、強い興味を覚えた。この分野を勉強するために、アメリカ留学を考えるようになった。

当時の日本では、今主流となっているアメリカ流の経営学は全く知られておらず、ビジネススクールという言葉自体がなかったと思う。僕がアメリカのビジネススクールに留学することを聞いた友達が、「アメリカまでタイプを習いにいくのか?」と怪訝な顔をしたくらいだ。

1958年、野田醤油(現在のキッコーマン)入社後まもなくアメリカへ留学。61年にコロンビア大学経営大学院を修了し、同校でMBA(経営学修士)を取得した日本人の第一号となった。

留学から戻ってきた頃には、日本にも経営学ブームが起きつつあった。経営学者の野田一夫氏(現日本総研会長ほか)、慶応大の講師だった坂本藤良(ふじよし)氏らが、日本における新しい形の経営学の創始者となり、野田氏はドラッカーの著書を翻訳、坂本氏は、著書『経営学入門』(光文社)がベストセラーになった。ドラッカーへの関心も次第に高まり、65年頃には日本でもドラッカーの著作が非常に多く読まれるようになっていた。

帰国後は僕もドラッカーの書評を書いたり、解説を雑誌に6カ月ほど連載したりした。ドラッカーは2005年に亡くなったが、日本に初めて紹介されてから50年以上経つ今でも、著書が売れ続けているというのは凄いことだ。『現代の経営』の中で一番大切な部分は、企業が社会に存在する価値とは、顧客を創造する、需要を創造するということ。これに尽きると思う。これをなしえた企業が雇用を生み、利益を出し、株式配当を可能とする。それができて初めて、企業が経済・社会に貢献したといえる。