創造性を掲げる前に大事なことを忘れていないか。「モノマネは戦略だ」と公言する名物社長のパクリ経営の真髄を探った。
のどかな住宅地が広がる東京都下、小金井市――。うだるような残暑のなかを50人近い背広の集団が汗を拭き拭き、列をなして歩いていく。9月なかばの火曜日、午前11時すぎ。路上に落ちかかる影がくっきりと濃い。
なにやら声を張り上げながら先導するのは、株式会社武蔵野の小山昇社長である。
「いいですか。マネは戦略、パクリは戦略なんですよ」
ついさっきまで、築30年超の本社屋のなかで持論をぶっていた。次は近くにある現場事業所へ移動し、会社の中身をそっくり見てもらおうというのである。
武蔵野は東京西部をエリアとするダスキンの加盟店。清掃用品の販売・レンタルが本業だ。しかし独自の「パクリ経営」で業績を伸ばし、2000年には日本IBMとともに日本経営品質賞を受賞。いまや自社の経営をモデルにした経営サポート事業にも乗り出している。10年4月期の年商は35億円を突破した。
経営サポートの関与先は300社以上。武蔵野社内の有料見学会も開いていて、こちらは全国の中小企業経営者や幹部らが年間3000人も殺到する。
「まあ、これ(見学会)だけで1億円以上の売り上げになりますな」
澄ました顔で小山がいう。その小山に引率され、炎天下の住宅街を歩いているのが見学会の参加者だ。
彼らは少なからぬ手間と費用をかけて全国から小金井へやってくる。しかもその多くは「社長」「取締役」と呼ばれる人種である。ごく素直に考えれば、武蔵野が提供するノウハウにそれだけの価値があるということだろう。
「北海道から九州まで、いろいろな地域から来られています。いつもは40人くらいですが、今日は多いようですね」
経営サポート事業本部の荒谷直子がそっと言い添えた。