上が小山社長の執務机。立って作業するよう、特製の台を履かせている。営業マンの机も同様で、社内に長居せず身軽に外出できるように仕向けてある。このアイデアも他社からの「パクリ」だ。社内の壁には、左の2枚のような掲示物があふれている。

小山が武蔵野の社長に就いたのは1989年のことである。小山の著書などによれば、当時の武蔵野は「落ちこぼれが集う赤字会社」だったという。

「なぜ赤字なのかというと、社員が変なプライドを持っていたからです。俺は人のマネをしたくない、独自のものをつくるんだと考えていた。つまり、低いレベルのプライドですよ」

その「低いレベルのプライド」を捨てさせるため、武蔵野は新人研修で「5回は目から汗をかかせる」(小山)という。

「最初は素直にマネをしないから、簡単に思える作業が簡単にはできません。まずは悔しくて、目から汗。そのうちマネをして結果が出たら、今度はうれしくて汗が出る。そういうことなんです」

小山がやってきたのは、社員の徹底的な底上げだ。できる人、できる会社を徹底的にマネすれば、いつかその「パクリ元」に近づき、やがては追いつくだろう。それを繰り返すうちに、人も組織も強くなり、自信を持って100%以上の力を発揮できるようになる。武蔵野がたどった道は、このような道である。

だが、他社がマネようとしてもマネられないことがひとつだけある。社長・小山昇の個性である。

「社員はみんな、小山のことが好きなんですよ」

ある社員がニコニコしながら話してくれた。視線の先に、いささか伝法な口調で見学会参加者に説明をしている小山昇の後ろ姿があった。

(文中敬称略)

※すべて雑誌掲載当時

(若杉憲司=撮影)
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