なぜ模造紙、手書きにこだわるのか
パクリのネタ元は、多くが社内他部署の事例という。武蔵野は経産省の「IT経営百選」最優秀賞を受賞するなどIT活用の先進企業としても知られている。生産性向上などに効果のあった事例は、イントラネット上に公開されている。
といっても、とりわけ難しいものではなく、だいたいは「ファクスの返信に際して、このように準備しておくとやりやすい」など、日常の業務を効率化させるアイデアである。こうした取り組みを社員は実地で見聞きするほか、データベースから成功事例を検索し、改善ポイントを探せばよい。
つまり、成功事例はPCでも見ることができるのだ。にもかかわらず素朴な「シート」にして掲示しているのは、小山によれば「そうしないと誰も見ないから」。
同じ理由から、武蔵野社内の壁面にはさまざまな表やグラフ、果ては個人の「始末書」までがずらりと並んでいる。パクリ改善シートのようにパソコンで作成したものはむしろ少数で、ほとんどは色つきマーカーや付箋(ポストイット)を駆使した手書きである。
社長室の壁には、業績を折れ線グラフで書き込んだ大きな模造紙が掲げてある。小山に聞くと、「入力はデジタルで、出力はアナログで。これが武蔵野のやり方です」。色つきマーカーを手に、グラフの線を伸ばすのは小山自身の仕事という。
パクリ改善シートの話に戻ろう。首尾よくパクリ先を見つけて改善を進め、証拠の写真を撮ったところで評価役の管理職(他の事業所に勤務する課長)がやってくる。評価役は改善効果を見てA・B・C いずれかの評価を下す。
パクリ改善シートには「パクリ元」とともに、このときの「評価」を示す欄が設けてあるのだ。
ところが小山は、不思議なことに「A・B・Cの評価なんてデタラメですよ(笑)。でも、それでいい」と割り切っている。小山が重視するのは、管理職同士が評価のために事業所間を行き来し、言葉をかけあい交流することのほうだ。
「組織というのは縦方向には情報が流れます。でも横にはなかなか流れない。情報を横展開するためにやっているのが、パクリ改善シートであり、課長による評価。AかBかCかなんて、本当は大事じゃないんです」
小山の目がきらりと光る。これでだんだん武蔵野の「パクリ経営」のアウトラインが見えてきた。