「儲かるか儲からないかではない、国のお役に立たなければ、三菱の意味はない」

図を拡大
フォーチュン・グローバル500の推移

同社の飯田庸太郎元社長の言葉である。

「三菱は国家なり」

この意識の高さこそが、三菱の矜持でもある。その一方で、大宮が先ほど「当社の問題点」と指摘したように、三菱重工は大企業病に侵され、にっちもさっちもいかない状態に陥っている。だが、三菱重工の社員の多くは、このままでは三菱重工が危ない、と考えてはいなかった。

社内に蔓延するこのような意識に対して、大宮の危機感は大きかった。魂が細部に宿るように、細部には組織の病巣が表れる。大宮は、その危険を肌で感じていた。象徴的なエピソードがある。

07年、当時、副社長だった大宮は、資材などの調達口座数を部下に調べさせたことがある。2週間待ってやっと返ってきた答えが、7万口座存在するというものだった。当時、三菱重工の社員数は、約3万3000人。「社員1人あたり、2つ以上の口座が存在するのか」。大宮は驚いた。部下が再びきたのは、2週間後で今度は「1万いくつあります」という報告だった。部下によれば、「同じ調達先でも、三菱重工の部署ごとに違う口座が存在する。さらにそれが事業所ごとに存在するから、一括で調達できる製品であっても、複数の口座になっている。このダブりを名寄せ業者に頼んだら120万円かかった」というのだ。

こうした壮大な“無駄”に気づかず、誰も疑問に思わないコスト意識のなさに、大宮は唖然とした。これを機に、大宮は、徹底的に事業内容を数値化し、視覚化し始めるのだった。数値化、視覚化が進むと一気に数字至上主義、儲け至上主義に邁進する企業も多い。ところが、大宮が指揮を執る企業は、三菱重工である。近代日本を形成するうえで不可欠な基幹インフラを、防衛を含めて、歴史的に背負い続けてきた企業なのである。