文具業界という成熟市場。さらに、少子化という厳しい環境で、三菱鉛筆は、なぜヒット商品を生み出せたのか。「機械屋さん」と「マーケッター」の妥協なき商品開発の現場をレポートする。
ニーズの萎えた成熟市場で大ヒットを出すには
成熟市場においてヒット商品を出すのは難しい。生活に必要な商品はすでに出そろっているので、消費者自身、「こんなモノがあればいいのに」と、強く求める「欠乏感」がなくなっているからだ。日本の消費市場は現在、総じてこのような「ニーズの萎えた」状態にある。
文具業界もこの例に漏れない。伝統産業の筆記具の市場規模(国内)は、約1000億円といわれるが、近年頭打ち状態が続いている。そして今後、少子化の影響をモロに受け、さらなる先細りが懸念されているのだ。
ところが、こんな厳しい環境に置かれながらも大ヒット商品を世に送り出した企業がある。シャープペンシルの「クルトガ」を開発した三菱鉛筆だ。同社は2008年3月にこの新しいシャープペンを発売し、わずか1年で300万本以上を売り切るという快挙を成し遂げた。
なぜこのようなことが可能だったのだろうか。
上記の通り、文具業界は成熟産業であり、シャープペンはまさに「成熟商品」である。この種の商品の場合、書き味など、本質的な機能はすでに開発し尽くされており、いきおい戦略の重点は外装面・補助機能面に置かれやすい。事実、この分野の成功事例であるパイロットのドクターグリップや三菱鉛筆のユニ アルファゲルなどは、グリップの握りやすさを改善し、それをアピールポイントにした商品だった。
無論、これらは消費者のニーズをつかむ優れた改良商品だ。だが単なる外装の変更といった類の「周辺戦略」は通常、すぐに壁に突き当たってしまう。マイナーチェンジは、「目先の変更」でしかないからだ。流行が変われば、すぐにフェードアウトしてしまう危うさをもっている。本質的な機能の改善がない以上、インフラにはなりえず、業界スタンダードとして長期間の存続は不可能なのである。