三菱鉛筆では、00年前後からシャープペン事業の弱体化ということが問題になっていた。これを危惧したトップが、技術面でまだやるべきことがあるはずだとの認識に立ったという。そして命令一下、シャープペンの原点に立ち返り、周辺ではなく、中身・基本機能のところで画期的な新技術の開発を試み、「新しい機能」を搭載した製品をつくろうということになった。今から8年前、その開発チームの設計者に任命されたのが、横浜研究開発センター課長の中山協氏である。

開発チームはまず、以前から気づいていたものの、消費者にとって必要性が高いかどうか半信半疑だった「偏減り」という現象に注目した。これはシャープペンで書き続けていると、芯が一方向に偏って減るため、文字が太くなって薄くなる状態を意味する。これによって明らかに書き味が落ちてくるのだ。またこの偏減りのせいで芯のかどが崩れて粉が多く出たり、芯のかどが紙に引っかかったりというトラブルもある。このような問題を解消するための商品をつくろうと、動き出した。

とりあえず社内で「機械屋さん」と呼ばれる開発チームにより、芯を回転させるという機構の土台となるアイデアは出た。だが、それの実際の商品への落とし込みが容易ではなく、苦心惨憺の日々だったという。長期間、具体的な企画が出せないままで、この開発を手がける機械屋さんたちの「解体」論まで浮上する始末。

難渋の末、なんとか筆圧の力を使って歯車を上下させることで芯を回転させるという現在のクルトガエンジンの原型ができたのが開発スタートから4年後の05年秋のことだった。

芯が回転することで常にとがった状態を維持できるクルトガエンジンの開発は確かに素晴らしい。優秀な研究スタッフによる血と汗と涙があったからこそできた偉業だ。だが、さらに特筆されるべきはこの後、商品の市場化に至るまでに同社が実施した商品改良のプロセスだ。

05年11月の社内提案以降は、研究開発センターと主にマーケティングを担当する商品開発部が一体となって商品開発に取り組んでいる。その当時の状況を中山氏はこう語る。「スペックの積み上げについては、商品開発部と研究開発センターが本当に二人三脚で取り組みました。漢字一画当たり何度回せばいいのか。はじめての商品なので、指標がありませんでした。15度ぐらいがいいのか、もっと細かいほうがいいのか。それがわからないので、商品開発部と一緒に相当細かく連携をとりながらやりました」。