言葉を尽くして丁寧に話しているはずなのに、相手は「?」と首を傾げている……。そんな現象が起きるのはコミュニケーション能力が原因ではなく、認知の問題だった。注目を集める認知科学の研究者が、「話せばわかる」の幻想を解き明かす――。

言葉は外界にあるリッチな情報を捨てている

――ビジネスや日常生活で「何度も説明したのに話が伝わらない」という経験はよくあります。言葉や説明が足りないのでしょうか、それとももっと別の問題があるのでしょうか?

【今井】まず前提として、「伝えたいことはすべて言葉で伝えられる」というのが、そもそもの思い違いなんです。私たちは言葉を使ってコミュニケーションを取っています。そのとき、話し手は自分の思いやイメージを言葉にぎゅっと圧縮している――。つまり、言葉は外界にあるリッチな情報を捨てて、ある一面だけをすくいとって記号化しているんですね。一方で聞く側も、相手が話したことをそのまま頭にインプットしているわけではありません。抽象度が高い言葉を解釈するため、行間を埋めようと「スキーマ」を稼働させています。