体罰による「しつけ」では解決しない
もちろんケンカがまったくないわけではない。
「愛されていると分かっている子は、致命傷を与えるような攻撃をすることはまずありません。それはダメだと知っている。だからこれまで、生命にかかわるようなケンカは初期のころ一度だけ。ナンバーワンを決める争いで、ただのケンカではありません。これは危ないと判断し、喉元に噛みついて首を振り続けている犬の顔にホースで水を噴射して止めました」
どんな問題犬も、信じて、愛情を注いで、待つ。自由に遊ばせ、草木に触れさせ、太陽と大地のエネルギーを浴びさせてあげることが、犬たちの心身を健やかにすると信じている。
「うちの犬たちは、本当に病気しない。動物の健康は、食欲にあらわれます。他の施設でありがちな、ずっと食べないとか、決まったエサしか食べないとか言うことはうちでは全然ありません。考えてみればすごく単純な話。一日中太陽を浴びながら動き回っている犬と、ケージの中で過ごす犬と、お腹が空くのはどっちかってことです」
300頭が自由に過ごせる施設をつくる
定員は40頭、現在の39頭は上限ぎりぎりだ。広々としたドッグランを見ると、もっと預かれてもよさそうな気がするが「第二種動物取扱業」の規則で、スタッフ1人当たり20頭までが限度と決まっている。
「今は、常駐が私と妻の2人だけなので、40頭ということになっています。予約が6件ぐらい入っているので、1頭譲渡できたらまた1頭預かれるといった感じですね。でも、犬たちにのびのび暮らしてもらうには、今より増やすと室内が手狭になる」
1頭でも多くの犬を引き受けるために、齊藤氏は今、新たな施設の開設を計画している。
「敷地面積1万2000坪、周囲に住宅なしの立地の土地を取得しました。当初2028年の開設予定でしたが、すぐにでも引き取りを必要としている犬が多いので、急いでいます。できれば27年には開設して、300頭の犬が自由に過ごせる施設にしたいです」
思いに共感する個人や団体は多く、わんずふりーの犬たちのエサは、すべて現物の寄付で賄えている。去勢や避妊手術、ワクチン接種も獣医師が協力してくれる。ワクチンの代金は仕入れ値だ。
「寄付金は沢山いただいていますが、今は全額手つかずでとってあります。すごくありがたいし、恵まれていると思います。だからこそ自分たちの人件費にも使いません。ビジネスなら運用して増やしたほうがいいのかもしれませんが、営利的な使い方は絶対にしたくない。すべて新しい施設の建築費用の一部として使います」