サッカー日本女子代表監督 
佐々木則夫

1958年生まれ。帝京高校で日本高校選抜主将。明治大学卒業後、NTT関東サッカー部でプレー。2008年より現職。

「(コーチのときと同じく)選手たちは、僕のことを監督になってからも『ノリさん』と呼んでくれる。さすがにヘッドロックを掛けられることはもうないが、ときには悪ふざけで『ノリオ』と呼び捨てにされることぐらいなら、いまだによくある」

著書『なでしこ力』でそう述べているように、なでしこジャパン監督の佐々木則夫は、選手と対等な関係を築いている。試合本番でも、笑いの力で選手の力を最大限に引き出そうと試みる。

「なでしこジャパンは、いつだってよく笑う。特に平常心を失いがちな場合こそ、笑うことで頭をクールダウンさせることができると僕は考えている。(略)ある試合ではハーフタイムに冗談を言って選手を笑わせたことがある」(『なでしこ力』)

FIFA女子ワールドカップ決勝戦でのPKのときもそうだ。優勝記念の会見ではそのときのことを次のように語った。「我々からしたら、天からの恵みたいなものですから、もう、笑いが止まらないくらいの空気だったんですね。そういう意味でギャグも一発やろうかなと思ったんですけど、そこまでちょっと頭が回らなかったので。(PKの)順番を決めなきゃいけないですからね」。

なでしこジャパンにとってのライバルは、W杯で戦ったアメリカやドイツ、さらにロンドン五輪アジア最終予選で熱戦を繰り広げたオーストラリア、中国など世界の強豪チームだ。

ただし、彼女たちはあくまでライバルでしかない。なでしこたちには、本当の敵がいる。それは、国内での女子サッカーに対する関心の低さだった。

W杯ドイツ大会での優勝により、一気に人気が出ただけである。仮に、メダルを逸していたなら、大会前と事態は変わらなかっただろう。

監督である佐々木は、チームを活性化させるためだけではなく、女子サッカーの人気を上げるためにも、ユーモアを求められたのだ。