NHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の主人公、蔦屋重三郎とはどんな人物か。歴史評論家の香原斗志さんは「江戸を代表する出版人になった彼の原点は、『吉原に人を呼ぶ工夫』である。彼が手掛けた書籍には、それが散りばめられている。」という――。
2024年1月19日、フランス・パリで開催されたパリ・ファッション・ウィークのメンズウェア2024/2025年秋冬コレクションで、ディオール会場の外に現れた横浜流星さん
写真提供=ゲッティ/共同通信イメージズ
2024年1月19日、フランス・パリで開催されたパリ・ファッション・ウィークのメンズウェア2024/2025年秋冬コレクションで、ディオール会場の外に現れた横浜流星さん

吉原の遊女が強いられていた悲惨な境遇

2025年のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」がいよいよはじまった。第1回の「ありがた山の寒がらす」(1月5日放送)では、吉原で生まれ育った主人公の蔦屋重三郎(横浜流星)が、吉原の現状を憂いて模索する場面が描かれた。

なにしろ、老中の田沼意次(渡辺謙)の屋敷にあいさつに訪れた商人の荷物持ちを買って出て、田沼に直談判までしたのである。

その前には、吉原の遊女たちの悲痛な場面が続けざまに描かれた。

吉原で遊ぶのは高いから客が来にくいが、遊郭が火事で焼けた際の仮宅(臨時の遊郭)には客が押し寄せるので、それに期待して火をつけ、連行される遊女。食事を同僚に分けあたえ、自分は衰えて死んでいった遊女。裸で横たわる複数の女性が画面に映し出されたが、それは着物すら売り物にするために引きはがされ、虫けらのように埋められてしまう遊女の悲惨な境遇を強調するためだった。

吉原が不振である理由を、蔦重の周囲の人たちは、岡場所と宿場のせいだと語っていた。吉原は幕府が公認した江戸唯一の遊郭だが、そのぶん高い。一方、非公認の遊郭である岡場所や、事実上の遊郭と化していた江戸四宿(品川宿、内藤新宿、千住宿、板橋宿)では、安く遊べる。このため吉原の客離れが起きている、というのだ。