2025年NHK大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」の主人公は、江戸後期に活躍した蔦屋重三郎だ。歴史評論家の香原斗志さんは「彼が活躍する18世紀後期の江戸は、経済と文化が活性化していた。それは、ある政治家による改革の成果だ」という――。
2024年2月7日、ジョージア州アトランタで開催された第12回SCAD TVfestの「TOKYO VICE」シーズン2プレミアと渡辺謙へのヴィルトゥオーゾ賞授与式に出席した渡辺謙。
写真提供=Paras Griffin/ゲッティ/共同通信イメージズ
2024年2月7日、ジョージア州アトランタで開催された第12回SCAD TVfestの「TOKYO VICE」シーズン2プレミアと渡辺謙へのヴィルトゥオーゾ賞授与式に出席した渡辺謙。

蔦重活躍の背景にある政治家の存在

平安王朝が描かれた「光る君へ」から時代が下ること、一挙に七百数十年。2025年に放送されるNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」の舞台は、江戸時代の中期から後期である。

「物語」がドラマのなかで重要な役割を果たすという点は、奇しくも共通しているが、「物語」のあり方はかなり違う。「光る君へ」の時代には印刷技術もなく、物語は作者も読者も狭い宮廷のなかで完結していたが、「べらぼう」で描かれる時代には木版による印刷技術が発展し、以前は高価だった紙の価格もかなり下がって、「物語」が広く読まれるようになっていた。

そんななか、主人公の「蔦重」こと蔦屋重三郎(1750~1797年)は、いまでいえば出版社の社長兼プロデューサー兼編集者として、あたらしい企画や売れっ子作家を次々と世に出し、一躍寵児となり、いわば「メディア王」として君臨するまでになった。

歴史の教科書に登場するだけでも、重三郎のおかげで活躍できたといえる人物は、大田南畝、恋川春町、山東京伝、曲亭馬琴といった作家から、喜多川歌麿、東洲斎写楽といった画家まで、じつに多士済々である。

ただ、ひとついえるのは、これはたんに重三郎に才能があったことだけが理由だとはいえない。新たな発想を世に問うことが許され、新規の取り組みに挑戦しがいがある時代背景がなければ、いくら才があっての時代の寵児にはなれない。

では、そんな時代環境を生み出した人物はだれか。それは学校の歴史の授業では、賄賂にまみれた悪名高き政治家としておなじみの、田沼意次である。