三日月、鹿、六文銭など戦国武将の兜には独特のデザインが施されている。なぜこの時代の武将だけが個性的な甲冑を着用したのか。歴史評論家の香原斗志さんは「時流の変化で、甲冑にイノベーションが起きたことが大きく影響している」という――。
福岡市博物館所蔵の黒田長政肖像画
福岡市博物館所蔵の黒田長政肖像画(写真=CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

「好きな歴史上の人物ランキング」で戦国武将が上位のワケ

好きな歴史上の人物を尋ねるアンケートでは、上位に決まって戦国武将が何人も名を連ねる。NHK大河ドラマで描く対象についても戦国武将待望論が根強く、実際、戦国が舞台になると視聴率もいい。それだけ戦国武将は人気なのである。

ある意味、当然かもしれない。たとえば江戸時代の大名であれば、幕藩体制下でその地位を世襲したにすぎない。いわば、雁字搦めの組織のなかで飼い慣らされた人物である。戦国大名も、その地位は世襲される場合が多かったが、後を継いだのちに安閑としていれば、たちまち滅ぼされかねないのが戦国時代だった。

それだけに、生き残り、勢力を拡大した戦国武将は、各人がみな個性にあふれて魅力的に映る。そのことに一役買っているのが甲冑ではないだろうか。とくに兜は、戦国武将たちにとって、たんに頭部を防御するだけのものではなかった。武将の威厳を示しながら願いを込めるなどした「立物」を取りつけ、兜を通してみずからの存在感を示した。いわば武士の魂を視覚化したのである。

これが戦国武将の個性を端的に表しており、一目見てその武将ならではの魅力が伝わるおもしろさがある。この甲冑ゆえに、戦国武将の人気が高いという指摘もできるだろう。