※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 増刊号』の一部を再編集したものです。
「医療のエコ」が必要な理由
【武中篤(鳥取大学医学部附属病院長)】病院長になってから、人口が減りつつあるこの地方で、いかに持続的に医療を提供し続けるかを考え続けています。まず、地方では人が足りないです。医師も看護師も足りない。
幸い、とりだい病院はなんとか人材を確保していますが、少し離れた病院だと募集してもこない。さらに、俯瞰的にみると、地球は温暖化という危機に瀕している。我々は、環境、つまりエコロジーにも配慮しながら、人口減の中、サステイナブルな医療体制を確立しなければならない。「医療のエコ」です。
たまたまアステラス製薬の方にその話をしたら、社長以下、「医療のエコ活動」の啓発活動に力を入れているとおっしゃったのです。
【岡村直樹(アステラス製薬 代表取締役CEO)】アステラス製薬は、変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの「価値」に変えることを「VISION」に掲げています。これまでの薬のほとんどは、血圧を例にとれば、薬を飲むことで血圧を下げる。
飲まないと、血圧がもとに戻るというものでした。一方、今、開発を進めている細胞医療や遺伝子治療は少し違います。
【武中】細胞医療とは患者さん自身の細胞、あるいは他人の細胞から培養や加工により作製した細胞を用いて、損なわれた身体の機能の回復や病気の状態の改善を目指す治療。遺伝子治療は、様々な技術を用いて作製した治療用の遺伝子を投与することで、主に遺伝子疾患の状態の改善を目指す治療。従来の薬の多くが、患者さんの症状を軽くする対症療法とすれば、細胞医療や遺伝子治療は、疾患の原因にアプローチする根本療法。
【岡村】身体のある器官の反応が悪くなったとします。薬でもとに戻るならばいいでしょう。しかし、完全に壊れた、あるいは無くなってしまった場合、正しく機能する細胞に替えるしかない。
【武中】身体の中の、血液を全部入れ替える骨髄移植と同じですね。我々のような外科医にとっては、こうした治療は怖さがあります。自然の摂理に反しているというか……。
【岡村】(深くうなずいて)そもそも細胞医療を薬の範疇にいれていいかという議論もあるでしょう。我々は細胞医療をみなさんやりましょうという考えではない。
困っている患者さんに対して、こういう選択肢もありますと提示したい。現時点では、患者さんは選びたくても選べない状況なのです。