日本にイノベーションを持ち込む道を

【岡村】ただ、最先端のイノベーションを薬という形で出すとどうしても単価が高くなってしまいます。武中先生が言われるように、医療保険制度の財政は逼迫しています。その上にこうした薬を載せることは難しいです。

今ある制度の中で医療資源を再振り分けした上で、ドラッグ・ラグ、ドラッグ・ロスを改善し、日本にイノベーションを持ち込む道を作っていきたいと考えています。

【武中】あえて意地悪な質問をさせてください。欧米で安全性が確認されたからといって、アジア系でも大丈夫とは限らない。もっといえば、同じアジア系でも中国人は問題なくても、日本人は違うかもしれない。慎重な対応が必要になるのではないですか?

【岡村】厳密にいうと、アメリカという国は極めて人種が多様。中にはアジア系も入っています。ただ、食生活、生活習慣により、アメリカで暮らす日系人と日本人は薬物動態(※3)が違う可能性がある。

その意味で最初のグローバル治験の中に少数でも日本人の症例が入っていることは重要。各国での承認に入ったとき、日本人の薬物動態を考慮することで時間を短縮できるはずです。

アメリカの手術機器は5年遅れで日本に入ってくる

【武中】ぼくは手術を主とする外科医なのでそこまで薬に詳しいわけではありません。ただ、手術機器についても、デバイス・ラグがあります。例えば、とりだい病院が力を入れている手術支援ロボット。

アメリカでは2003年ごろから使われていましたが、日本に入ってきたのは2010年。7年遅れている。ぼくの感覚では手術機器はだいたい5年ほど遅れて入ってきます。

最近はやや改善していますが、まだラグはあります。薬に関して言えば、私が気にかけているのは希少疾患、難病です。

ロボットアームと人工知能による手術のイメージ
写真=iStock.com/sefa ozel
※写真はイメージです

【岡村】我々は難病という言葉を使うとき、10万分の1という数字を出します。人口比で、10万分の1、あるいは10万分の2以下の方しかかからない疾患に対する薬はビジネスとして手を出しにくい。

【武中】患者さんが少ないのでそもそも開発の成功率が低い、そして薬を開発しても採算ベースに届かない。

【岡村】だからこそ、日本だけではなく、グローバルな規模で開発しなければならないのです。

【武中】あまり知られていませんが、薬というのはすべての患者さんに効くわけではない。特に、がんにおいては奏効率(※4)という数字が使われます。

【岡村】すべての患者さんに効く薬があったら素晴らしい。我々は「VISION」として、そこを目指していますが、現実は厳しい。