新型コロナウイルスの影響で病院はおろか日本全体が混乱し、全く先の見えないなかで森田理恵さんの鳥取大学医学部附属病院 副病院長・看護部長としての日々はスタートした。ひとつのクラスターが終わると、また次のクラスターが発生する。たえず非常事態に対応しなければならない状況にあって、そんな時だからこそ大切にしたのは“コミュニケーション”と“透明性”だった。その人が今、何を求めているのか、何に困っているのか。手術看護師時代の経験が原点だと言う森田さんは、常に先回りして一歩先を考え行動する――。

※本稿は、鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 17杯目』の一部を再編集したものです。

子宮臓器のグラフィックアイコンに触れる女性医師
写真=iStock.com/mi-viri
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自分たちがいいと思っていたことが、本当に正しかったのか

自分が鳥取大学医学部附属病院の看護部長に推薦されると聞かされたのは、2021年12月のことだった。

「(前任の看護部長である)中村(真由美)部長から呼ばれて、次の看護部長に推薦すると言われました。それまでも次を任せるという話をされたことはありました。ただ、絶対に自分がやるんだという意識はありませんでしたね」

とりだい病院の看護部は約900人。“部”としては最大である。副病院長を兼任する看護部長は、病院長と並ぶ病院の顔だ。

手術中の森田理恵氏
撮影=中村 治
鳥取大学医学部附属病院 副病院長・看護部長 森田理恵氏

看護部長は選考委員会での面接、書類審査を経て決定する。2022年4月、森田理恵は正式に看護部長に就任した。

「副看護部長として中村看護部長と一緒にやってきたので、やるべきことは分かっていました。ただ、実際になってみると風景が違っていましたね。これまでも副師長から師長、師長から副看護部長と職位が上がると、景色が違うとは感じていました。

看護部長は病院全体としての看護部、国立大学病院の中でのとりだい病院看護部という視点になります。自分たちがいいと思っていたことが、本当に正しかったのか。

他の国立大学病院が先を行っている部分はあるか。とりだい病院の強みは何か。そうしたことを考えるようになりました」

森田が看護部長となったのは、新型コロナウイルスという濃い霧が社会を覆う時期と重なっていた。とりだい病院は新型コロナを含めた2類感染症を受け入れる「第二種感染症指定医療機関」だった。

「すでに鳥取県で新型コロナ罹患者が出ていました。私が看護部長になった頃から、病院内のスタッフに患者がぽつぽつ出始めたんです」

この頃、新型コロナの情報は限られていた。鳥取県は最後まで罹患者が出なかった都道府県の一つだった。未知の感染症に対して、住民はかなり神経質になっていた。