患者との関わりは一瞬、だからこそ全力でやる
看護師になったのは自分の強い意志ではなかった。手術看護師となり、自分が歩んできた道は正しかったのだ、これは天職ではなかったかと考えるようになった。
ごく稀に患者と会話を交わすこともある。ある日、子宮がんの知り合いの医師の手術を担当することになったのだ。
「ずっと一緒に仕事していた女性医師だったんです。すごく食べることが好きな方で、入院されたというので病室に行くと、塩鯖が食べたいなんてことをおっしゃっていた。
手術終わった後に食べられたらいいね、なんて話をしていたんです。すると、お腹を開けてみると、(執刀を担当する)先生が、これはもう摘出じゃないって。思ったよりもがんが進行していた」
彼女は麻酔がかかっていて眠っている。本人、家族も知らないことを自分は知ってしまったと、自分の仕事の重みを改めて感じた。
「彼女は当時50歳ぐらいだったのかな。糖尿の気があって、子宮にがんがあると分かってから、なかなか手術できなかった。ようやく手術にこぎつけてみたら、手遅れだった。すごく頑張って仕事をしていた彼女がなぜこんな目に遭わなければならないんだろうって」
後日、彼女の病室に行った。
「痛いところないですか、早くご飯食べられるようになればいいですね、など当たり障りのない話だけしかできなかった。彼女も医師なので自分の状態を分かっていたのでしょう、あまり元気がなかった」
彼女が亡くなったのはそれからしばらくしてからのことだった。
自分たちが患者と関われるのはほんの一瞬に過ぎない。だからこそ全力でやらねばならないと強く思った。
働き方改革で看護師は「鍵」となる存在
とりだい病院の看護部長である森田が現在、最も注力しているのは後進の育成である。
「医療現場でDX(デジタルトランスフォーメーション)、AI(人口知能)の導入が進むのは間違いありません。ただ、人でしかできないことがあります。医師は常にたくさんの仕事を抱えています。
手術、外来、あるいは学会などで外に出かけることも多い。患者さんにとっていい医療はなんだろうって考えると、常にそばについている看護師の役割が大きくなるんです。
患者さんの病状に急変があったとき、的確な判断ができることなど、患者さんを守れる看護師を育てなければならない」
今年4月から医療従事者の時間外労働に上限が定められた。医療の「働き方改革」が始まっている。
医療の働き方改革において、看護師は鍵となる。これまで医師の専任事項とされていた分野、例えば麻酔に関しては周麻酔看護師という専門知識のある看護師が担うこともできる。
一方、事務作業などを看護師以外に割り振るというタスクシフトが必須だ。
「私たちの時代と比べて、今の看護師は夜勤を避ける傾向があります。特にお子さんがいると保育園の送り迎え、そして当然のことですがお子さんとなるべく一緒にいたいという気持ちは理解できます。子育ては応援しなければならない。
同時に看護師とは24時間患者さんに付き添わなければならない仕事でもある。そこで夜勤は必須になる。それを独身の看護師にだけ押しつけていいのか。夜勤をしてくれる看護師をどう守るのか」
今、彼女はその解を探し求めている。森田自身、独身時代から率先して夜勤をしていた。
「私はずっと結婚しないと思っていましたし、夜勤が負担でもなかったので、どうぞどうぞって引き受けてました。結婚したあとも、子育てはうちの母と父、そして夫に頼んでました。振り向いたら大きくなっていたという感じでした」
ただ、朝出かけるとき、子どもが「じゃあまた明日ね」と言ったときはハッとしましたね、と笑う。
「確かに私は朝早くから出かけて、帰ったときは子どもたちは寝ているなって」
最近、その娘が小学6年生になり、将来は看護師になりたいと口にするようになった。自分の仕事を認めてくれているのだと嬉しくなりましたね、と顔をほころばせた。
「看護師をしていると、他の病院の知り合いができたりして、世界が広がる」
看護という仕事はやり甲斐があると思うんですよと付け加えた。
鳥取県米子市出身。1989年国立米子病院(現:米子医療センター)附属看護学校卒業。神奈川県リハビリテーション病院、松江医療センターでの勤務を経て、1996年鳥取大学医学部附属病院に入職。手術部へ配属。2003年放送大学教養学部卒業。2007年鳥取大学大学院医学系研究科保険学専攻修士課程修了。2008年日本看護協会が認定する手術看護認定看護師資格取得。2013年に看護師長、2018年に副看護部長。2022年4月より鳥取大学医学部附属病院 副病院長・看護部長となる。