仕事で生涯現役を貫くのと定年前にセミリタイアするのはどっちが幸せか。精神科医の保坂隆さんは「私は50代半ばで管理職を命じられたことをきっかけに『元気な間に自分が本当にやりたいことをやろう』と決意しセミリタイアすると、精神的に非常に満足度の高い日々を過ごせた。定年後も同じで、収入の代わりに、時間というもう1つの人生の財産が手に入ると考えれば恵まれた暮らしとなる」という――。

※本稿は、保坂隆『お金をかけない「老後」の楽しみ方』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。

紙ナプキンに書かれた「Should I retire early?」の文字
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セミ引退体験で精神的には非常に満足度の高い日々

定年前に仕事を辞める……。

実は、私はそんな体験をしています。

50代半ばで勤めていた病院を辞めてしまったのです。履歴などを書くときは次に勤めた病院を続けて書くので、前の病院を辞めてすぐに次の病院に移ったと思われている人も少なくないようですが、それは誤解。前の病院を辞めたときには、先の見通しはまったくなかったのです。

それでも辞めたいと思ったのは、管理職を命じられたからでした。管理職になることは組織人としては「出世」であり、一般的には喜んでいいことだと考える人も少なくないでしょう。

でも私にとっては、後進の指導をするとか部署をまとめるなどの仕事が増え、自分が本当にやりたい仕事から離れていくことを意味していました。

そこで考えた末、「元気な間に自分が本当にやりたいことをやろう」と決意したわけです。経済的な保障はなくなり、実際それ以後、聖路加国際病院(当時)のお話があるまでは週2回、ある病院で外来を担当させてもらう、いわゆるアルバイト生活を送りました。

この間、経済的には不安もありましたが、以前からやりたいと思っていた地域医療のモデルづくりなどに関わることもでき、精神的には非常に満足度の高い日々だったと胸を張れます。

それから2年後、聖路加国際病院に移ったのですが、ここでは私が本当にやりたかった領域の専門医として仕事をさせていただいたので心から満足し、迎え入れてくれた病院にも大変感謝しています。

こうした経験から私は、お金では得られない満足感があることを体験的に知ったのです。

定年後は、確かに収入は減るかもしれませんが、その代わりに、時間というもう1つの人生の財産が手に入るのです。

それを考えれば、定年後の年金暮らしというのは、別の豊かさに満たされる恵まれた暮らしといえるのではないでしょうか。