●池谷先生からのアドバイス

受験生のころ、「必勝合格」と壁に貼って自分を励ましていた人はいないでしょうか。泥臭い印象があるのか、最近は以前ほど見かけなくなった気がします。しかし、精神論だといってバカにしてはいけません。紙に書いて自分に発破をかけるのは実は理に適ったやり方なのです。

モチベーションに関しては、ロンドン大学のペジグリオン博士によるこんな実験があります。被験者に、スコアに応じてお金がもらえる簡単なテレビゲームをしてもらいます。ゲームの直前、画面には1ペニーか1ポンドのコインが表示され、それが賞金のオッズ(倍率)になります。つまり1ペニーで100点なら100ペニー、1ポンドで100点なら100ポンドが賞金額です。

脳の中には淡蒼球という場所があり、モチベーションを生む場所として知られています。この実験で淡蒼球が活発に活動するのは、オッズが高くなる1ポンドが表示されたときでした。

では、コインをサブリミナルで一瞬だけ表示するとどうなるか。1ポンドが表示されたときは、淡蒼球がきちんと活動していることがわかりました。

この実験から読み取れるのは、本人はまわりの状況を意識できなくても、脳はしっかりと把握し、それをモチベーションに変えているということです。つまり「必勝合格」と書いた紙を貼っておけば、あえて意識して見なくても、無意識の脳にメッセージが届き、やる気をかきたててくれるというわけです。

ただ、あからさまに見える位置に貼るのはNGです。人によっては「格好悪い」「こんなものでやる気が湧くはずがない」という、とんがった意識が邪魔をして効果が出にくくなる場合があるからです。幸い無意識の脳は素直で、見栄をはったり、常識に縛られたりしません。無意識の脳だけにメッセージが届くように、さりげなく見える場所に貼ると、いっそう効果があるでしょう。