●池谷先生からのアドバイス

仕事や勉強で期待通りの成果が出ないと、努力を続けることが空しくなるものです。しかし、そこで諦めてしまうと成長も止まります。思うように成果が上がらない人は、まず勉強法を見直すことから始めてみましょう。

早く成果を出そうと最初から高度なところに挑戦する人がいますが、あれは逆効果。脳科学者がサルに複雑な行動を学習させるとき、すべてを1度に教えることはありません。「届かない位置にあるエサを長い棒を使って取る」という行動を覚えさせる場合は、まず「棒を使えばエサが取れる」ことを学習させてから、「短い棒より長い棒のほうが届きやすい」ことを教えます。

このように基礎から徐々に難易度を上げていく方法を「スモール・ステップ法」といい、一度に複雑なことを覚えるより最終的に早く多くのことを習得できることがわかっています。欲張りな学習はむしろ非効率です。焦らず基礎から順に学んでいったほうが、実はずっと早く目標を達成できるのです。

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記憶の半分は4時間以内に消える/勉強の量と成果の関係

そこで萎えてしまう人も多いと思いますが、実はここからが重要です。たしかに最初に基礎を習得するのに時間はかかりますが、基礎を覚えると、その理論を応用して次の段階を容易に覚えられるようになります。

サルの実験の例でいえば、「棒を使えばエサが取れる」と理解するまで、どうしても数週間は要しますが、それが習得できさえすれば、その日のうちに「短い棒で長い棒をたぐり寄せて、長い棒を使って遠くのエサをとる」という組み合わせ技も、覚えてしまうのです。この現象を「学習の転移」といいます。

さらにすごいのは、そのあとです。2つのことを覚えると相乗効果によってそれぞれの理解が深まります。これは「事象の連合」と呼ばれ、一般に累乗の効果があるといわれています。つまり成果が1度出始めると、あとは2、4、8、16、32、64、128……というように、等比級数的な上昇カーブを描いてどんどん成果が表れます。

長続きしない人は、実は8や16あたりの段階で諦めてしまっている可能性が大。諦めずに努力を続ければ1000以上に達するのはすぐなのに、そこでやめてしまうのは本当にもったいない!

すぐに成果が出ないからといって、焦って次のステップに進むのも厳禁です。実は記憶の半分は、覚えてから4時間以内に消えてしまいます。そこに追加して新しいことを覚えようとすると、「記憶の干渉」という現象が起こり、前の記憶はさらに忘れやすくなり、新しいことも記憶しづらくなります。

焦って次に進むより、まずは復習です。消えていたはずの記憶も、復習を繰り返すことで定着率が上がります。昔からよくいわれることですが、やはり勉強はコツコツが基本。短期的に結果を求めず、長い目で考えることがモチベーションの維持につながるはずです。

(村上 敬=構成 相澤 正=撮影)