日常生活にすっかり浸透した生成AI。「ググる」ようにAIに何でも頼るようになった時代で、AIに奪われない仕事はあるのか。東京大学教授が解説する。

「47%がAIで仕事を失う」衝撃の研究データ

現在、人工知能のモデルの一つである「生成AI」が世界的な注目を浴びています。生成AIは文章や画像、動画などの新しいコンテンツを作り出す技術を持っており、広く社会に浸透しています。生成AIの進化のスピードは私たちの想像を超えており、特に驚くべきはその普及率です。

これまで生成AIを活用し、膨大な学習データを支えてきたAIスーパーコンピュータは非常に高価で、大学や企業でも使用できる数が限られていました。

私が所属する東京大学薬学部の薬品作用学教室でも、何年か前に2000万円ほどかけてAIに膨大なデータを学習させるための「AIスパコン」を大阪大学と共同費で購入しました。しかし、当初は高度な専門知識が必要なため、あまたいる研究者の中でも一部の人しか使いこなせませんでした。

ところが、いまや生成AIは研究者たちの専門ツールではなく、安価な家庭用のパソコンやスマートフォンにまで普及しています。一般の方でもChatGPTなどを使って上手に質問すれば、精度の高い答えが返ってきます。

例えば、AIに「この文章を夏目漱石風の文体で書き直して」と指示すれば、あっという間に夏目漱石風の文章が出力されます。文章力は高いですし、画像生成AIを使えば一瞬にして立派な絵が出来上がります。俳句からシェークスピアのような戯曲まで、卓越したクリエーティビティを発揮します。私も、発表資料やプレゼンテーションのイラストを作成するときによく利用しています。

AIがこれほど進化して優秀になると、人類を支配し始めるのではないかとの声も聞かれます。特に、生成AIを活用することによって、文章や画像の作成、データの収集、市場調査、顧客対応など幅広い業務を自動化することが可能になります。そこで多くの人を不安に陥れているのは、「生成AIに仕事が奪われるのではないか」との懸念ではないでしょうか。

2013年にオックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授らが「雇用の未来」という論文を発表し、メディアなどで話題になりました。この論文では702種類の仕事を調査し、今後、AIなどによる効率化が進み、全米の雇用者の47%が仕事を失う可能性が高いと指摘しました。

イーロン・マスク氏が「AI3強」に割り込んだ

AIに代わられるリスクが高い仕事として、テレマーケター、手縫い裁縫師、経理担当者、保険契約の審査員、銀行窓口係、タクシー運転手などが挙げられています。しかし、私はこの論文でランキングされた仕事の多くは残ると信じています。そのことについては、後ほど詳しく説明します。

ここで、AI業界の現況を見ていきましょう。

生成AIが本格的に注目されたのは、22年11月に米国のAI企業、オープンAIが開発したチャットGPTを発表したときです。当時は世界的には名前を知られていない新興企業でしたが、チャットGPTは先進国ばかりでなく、グローバルサウスの国々にまで一気に広がりました。チャットGPTが画期的だったのは、GPT-3.5というAIを動かすためのアプリを、誰でも簡単にパソコンやスマホで、無料で利用できるようにしたことです。