育児ストレスでゆとりがなくなり、夫とも離婚寸前。そんなときに夫から「疲れているようだから病院で診てもらってきたら」と提案されたら、警戒が必要だ。離婚で親権を得るための策略という可能性もある。

離婚問題を数多く手がけてきた小嶋勇弁護士は、「夫が急に優しくなって、妻に精神科の診察をすすめたら注意したほうがいいかもしれない」と話す。背景にあるのは親権の問題だ。

「親権を争う調停や審判は、子どもを手元に置く親が圧倒的に有利。その状況をつくるために、妻に精神科への診察をすすめ、うつ病の診断が出たら『実家で休んでこい。子どもの面倒は俺が見るから』と提案。そのまま調停や審判を申し立てるケースがあるのです」

妻がうつ病との診断書は、親権が欲しい夫に有利に働く。ひどい話だが、夫側を一方的に責めるのはフェアでないかもしれない。これまで親権問題で立場が弱かった夫側の苦肉の策という見方もできるからだ。

そもそも親権は母親が有利になる場合が多いが、輪をかけたのがDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法改正だ。従来は身体的暴力のみを暴力と定義していたが、2004年の改正で精神的暴力もDV法の対象になった。その結果、妻が「精神的な暴力を受けた」と訴え、子どもを連れてシェルターに逃げ込むケースが急増したのだ。こうなると、実際にDVがあったかどうかと関係なく、夫は不利になる。うつ病診断は、その対抗策でもある。

妻は夫をDVで訴え、夫は育児疲れの妻をうつ病に仕立てる。このような泥仕合が起きるのは、面会交流権(=子どもと自由に会う権利)の位置づけが不透明であることと無関係ではない。