あるところに「日曜の午前中がいちばんの売れどき」と教わった車のセールスマンがいました。ところがその時間でもなかなか売れない。報告を受けた上司は「そうか、売れなかったか……」と責めるでもなく残念がるだけでしたが、本人は成績の低迷に悩んで鬱状態になってしまいました。ところが新しく異動してきた上司は彼の「売れなかった」という報告を聞き、「何でだろう? 不思議だね」と驚いたのです。その後しだいにセールスマンは鬱状態を抜け出し、また仕事に打ち込めるようになりました。
くじけやすい人は往々にして、失敗の原因を1つに決めつける癖があります。しかもそれを「自分に能力がなかった」などと、内的で変えにくい要素に求めてしまう。
ところがタフな人は、失敗を別の角度から捉えます。フラれてもすぐ次の恋をする女性は大概、「私がブスだったから」などとは思わず、「男運が悪かった」とか「スカートじゃなくてジーンズが多かったのが悪かった」というふうに考えます。運は自分と関係ない外的な要因ですし、服装はすぐにでも変えられる可変性の高い要素です。それが「次はうまくいくはず」というポジティブな気持ちを誘い出すのです。
冒頭で挙げたセールスマンも、はじめは車が売れないのを「自分に能力がないせい」と思い込んでいたのに、新しい上司の「何でだろう?」という言葉がきっかけで、自分の中にも「なぜ?」という疑問が生まれたのですね。それをあれこれ考えるうちに、「自己の能力不足」から「売り方が不適切」という原因の切り替えが起こったと考えられます。売り方が悪いなら、それを変えれば克服は難しくない。
職場で「最近上司の自分を見る目が厳しい。もしかして俺はリストラされるのか」などと思い詰めるのも、因果関係を一方向からしか見ていないために起こること。本当は、上司は娘が受験に失敗して機嫌が悪いだけかもしれません。だからくじけそうだと思ったら、対象を「単眼」でなく「複眼」で見ることが大事なのです。