東京・八王子のきぬた歯科は、北は栃木県から、西は三重県まで、340を超える看板を設置している。院長のきぬた泰和さんは「『うさん臭い』『なぜ八王子の歯科医院が看板を出すのか』と言われるが、インパクトを残せればそれでいい」という――。

※本稿は、きぬた泰和『異端であれ!』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

“八王子の歯科医院”が看板広告に2億円をかけるワケ

「きぬた歯科」は現在、右肩上がりで売り上げが伸びており、年商15億円から、今後さらに成長していく軌道上にある。同業他社や開業医との比較であれば、わたしは「成功者」ということになるだろう。

学生のときの自分、いや30代の自分でも、いまわたしが置かれた状況を知ったら、間違いなく狂喜乱舞したはずだ。

「きぬた歯科」と言えばの看板広告は、北は栃木県から西は三重県まで設置しており、その数は340を超えている。看板広告のために現在、年間約2億円を注ぎ込んでいるが、この2億円は崩さないどころか、今後はむしろ増やしていくつもりだ。

数年後に治療対象者になる方々を見越して、事前に「きぬた歯科」を認識しておいてもらい、いざ歯科医院に行くとなったときに最初に想起してもらうため、途切れなく看板を出し続ける必要があるからだ。

わたしが看板広告をはじめてからあまりに時間が経ち過ぎたので、ほかの歯科医院が追随するのはもはや無理ではないかと思うことすらある。「インプラントはきぬた歯科」という刷り込みは、おおよそ完了している。

いまの状態が続けば、わたしは誰が追ってこようと余裕で逃げ切れる自信がある。あくまで看板戦略という意味合いにおいてだが、わたしはすでに先行者利益を獲得している。

首都高速道路4号新宿線下り(永福)に位置する、3連の看板。首都高を走るドライバーの目に驚きをもたらす
首都高速道路4号新宿線下り(永福)に位置する、3連の看板。首都高を走るドライバーの目に驚きをもたらす(『異端であれ!』より)

看板広告で「脳への刷り込み」を狙う

看板広告の強みの本質はなにか――。

それは端的にいうと、「イメージの刷り込み」に尽きる。加えて、何度も繰り返し目に入る「単純接触効果」によって、その刷り込まれたイメージやメッセージが見る者の脳で強化、定着していく。

人間の脳に強力に刷り込まれる看板広告の威力は侮れないものがある。子どもの頃、地元の街でちょっと個性的な看板を出している店がなかっただろうか?

ふつう、子どものときに過ごした街の記憶はどんどん薄らいでいくものだが、そんな看板を出していた店だけは、大人になっても妙に覚えていることがある。記憶のなかで、「あの角を曲がると変な看板があったんだよな」と、意外と印象に残っているものがあるのだ。

これが、「刷り込み」と「単純接触効果」の威力である。

看板広告はエリアを限定するものの、そのエリア内ではマス広告の役割も果たすことができる。マス広告というと、一般的にテレビやラジオのCM、新聞や雑誌広告などが連想されるが、その多くも刷り込み型だ。

あるものが買いたくてテレビや新聞を目にしていたわけではないのに、そこで放映されるCMや掲載されている広告を何度も見るうちに、それが気になってきたり、なぜか欲しいような気がしてきたりするわけである。

ただし、これらのマス広告は、ターゲットが広いだけにどれも単価が高い。そんな高価なマス広告が乱立するなかで、対象を限定するかたちの看板広告は圧倒的に安価で、しかも強烈な影響力を与えられるのだ。