看板広告で“強烈な刷り込み”を生み出すコツ

特に、幅広いエリアを網羅しようと、散発的かつ等間隔に置いていくのはあまり意味がない。人の頭に入り込み、心を揺るがすためには、特定の場所に一気に並べるような工夫が必要なのだ。

同じ10個の看板広告を置くのでも、10個を一気に並べるのと、混雑エリアごとに等しく分散して置くのとでは、意味合いも効果もまったく違ってくる。人の目に入りやすい場所をひとつ選んだら、その1カ所に複数の看板広告を一気に並べるほうが、見る人の印象はがらりと変わるはずだ。

置き方には、ほかにもいろいろなコツがあるが、もうひとつ重要なのは、いわゆる「看板銀座」みたいな場所は避けるということだ。

人通りが多いからといって、例えば新宿駅前や渋谷駅前といった場所は、いくら置いても看板の洪水に埋もれてしまうだけである。これも、案外わかっていない人が多いポイントといえる。

ただし、わたしは新宿エリアに3カ所、看板広告を設置している(2024年現在)。市谷の防衛省付近にあるビルの屋上と、信濃町、そして新宿の伊勢丹新宿店の近くで明治通りと靖国通りが交わる場所だ。

これは少々高度な置き方で、わたしの看板全般にいえることだが、看板の下部に書いた「JR西八王子駅前」というインフォメーションとのギャップを狙っているのだ。

中年のおっさんがにやりと笑う「きぬた歯科」の看板。設置箇所は340以上
提供=きぬた歯科
中年のおっさんがにやりと笑う「きぬた歯科」の看板。設置箇所は340以上

「異様さ」と「うさん臭さ」で勝負する

わたしの狙い通りこの看板広告は評判がよく、「なんで西八王子なのに新宿なんだよ!」「この歯医者、うさん臭過ぎるだろ」などと、ネット上でも話題になり拡散されているようだ。

大都会の光輝くおしゃれな看板群のなかで、ひときわ目立つローカル感。デザインを含めたその「異様さ」によって、見る者に強烈なインパクトを残すことに成功した。

ここで、「新宿駅徒歩3分」「青山通り沿い」などという看板があると、見る者は途端に白けてしまう。「どうせボロ儲けしているんだろう」「成金の歯医者か」くらいに思うだけで、ほとんどの人は名前も忘れてしまうのがオチだ。

そんなおしゃれなだけの、吹けば飛ぶようなものではなく、看板広告にはもっと「大衆感」が欲しい。見た者が鉄板ネタとして周囲に話せるような、「ネタ感」が必要なのである。

中年のおっさん(わたしのことだ)がにやりと笑う衝撃のビジュアルとともに、新宿なのに「JR西八王子駅前」というローカル感を、違和感とともにアピールして、とにかくうさん臭さを演出し、感じてもらう。

ビジュアルが異様で、数の暴力も凄いとなると、見る者の心はなんだかわからないが、かき乱される。実際に、「きぬた歯科」の看板広告を見過ぎて、「インプラントといえばきぬた歯科が思いついて」といって、来院する患者はとても多い。

ちなみに、忘れてはいけないが、新宿駅は西八王子駅まで直通の立派な中央線沿線の街である。