小売発の新たな広告サービス「リテールメディア」の市場が急速に拡大している。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「米ウォルマートのリテールメディア事業は5000億円以上に達している。さらに2021年に始まった新サービス『ウォルマート・ルミネート』は、同社のリテールメディアと掛け合わされて事業展開することで、マーケティングのあり方を大きく変えるだろう」という――。
2024年7月2日水曜日、静かに買い物を楽しみたい人のためのクワイエットアワーに、オンタリオ州ヴォーンのウォルマートで買い物をする人。
写真=ZUMA Press/共同通信イメージズ
2024年7月2日水曜日、静かに買い物を楽しみたい人のためのクワイエットアワーに、オンタリオ州ヴォーンのウォルマートで買い物をする人。

世界最大の小売企業「ウォルマート」の新サービス

米ウォルマートが5月、データ分析サービス「ウォルマート・ルミネート(以下、ルミネート)」をメキシコ、カナダに拡大すると発表した。世界最大の小売企業である同社は、米国内で4600店舗以上、全世界で19カ国に1万500店舗以上を展開している。同サービスはいずれ米国、メキシコ、カナダ以外の各国にも広がると考えていい。

「ルミネート」は2021年に始まったサプライヤー(ウォルマートに商品を卸している企業)向けのサービスで、同社のリアル店舗やECサイトにおける商品の販売状況や買い物客の購買行動をデータ分析して提供するというもの。

ウォルマートについては、今年3月に「なぜウォルマートは5000億円以上を『広告』で稼げるのか…日本の小売業が誤解する『リテールメディア』の本質」という記事を公開した。「リテールメディア」は、小売(リテール)企業が顧客データなどを活用し、自社のスマホアプリや店舗のデジタルサイネージに広告を配信する仕組みだ。英広告会社WPP傘下のグループエムのリポートでは、2028年にテレビ広告市場をリテールメディアが超えると予測されている。

5000億円以上を「広告」で稼いでいる

米国では大手小売のほとんどがリテールメディア事業に取り組んでいる。なかでも売上で群を抜くのがアマゾンとウォルマートだ。特にウォルマートはこの3年で急成長し、現在は約5100億円に達している。日本の広告業界でいえば、電通、博報堂に次ぐトップ3に入る売上規模である。

「ルミネート」はウォルマートのマーケティングサービスであり、特に同社のリテールメディアと掛け合わされて事業展開することが期待されている。高い精度のデータ分析によって、サプライヤーの在庫管理、販売予測、プロモーションの効果測定、新商品開発などで実績をあげている。また、こうしたデータ分析からわかる販売予測やプロモーション効果は他の小売店にも応用できることから、従来のマーケティングが根本的に見直されようとしている。

「ルミネート」のサービス開始から5カ月後の2022年2~4月期には、利用する企業数が前四半期に比べて50%増加し、売上高は同じく75%増加した。

米国では、ウォルマートに商品を卸す大手サプライヤーの9割、中小サプライヤーの5割が「ルミネート」に契約している。利用しないサプライヤーは、競合企業に商品の棚を奪われかねない状況だ。

もし日本で同様のサービスが実現すれば、電通、博報堂をはじめとする広告代理店は、業務の一部を取って代わられるほどのインパクトがある。