10人以上の名前が挙がる「異例の総裁選」
自民党総裁選が熱を帯びている。8月14日に岸田文雄首相が総裁選への不出馬を表明して以降、立候補に向けた各候補者の動きが一気に加速した。
岸田政権は、派閥の政治資金規正法違反事件など、一連の問題を受けて支持率の低迷が続いていた。政治とカネをめぐる問題へのけじめとして党内の派閥が相次いで解散を決めたが、国民の不信は払拭できなかった。
岸田首相は、「自民党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くことだ」と述べ、「われこそはと思う方は積極的に手を挙げて、真剣勝負の議論を戦わせてほしい」と新しい党の顔の登場を歓迎する姿勢を示した。
党改革への期待に加えて、派閥のしがらみがなくなったことで、今回の総裁選は、かつてないほど候補者が乱立している。出馬を取りざたされる候補として、早くから10人以上もの名前があがった。正式な立候補には20人の推薦人を確保する必要があるため、最終的に8人前後に落ち着くのだろうが、いずれにしても乱戦になることは間違いないだろう。
そこで今回は、乱戦模様の自民党総裁選について着目すべきポイントを整理するとともに、政治マーケティング(※1)の視点から勝利の条件を考えてみたい。
※1:大統領選の行方を握る政治マーケティング(田中道昭「側近激白! トランプを語る3大ポイント」2ページ目、プレジデントオンライン、2017年1月16日)
「自民党が本当に変わった」というメッセージは必須
自民党総裁を選ぶということは、実質的に日本の首相を選ぶということだ。自民党内では、新首相が決まった直後に、衆院解散に踏み切るとの見方が広がっている。地に落ちた党のイメージを刷新し、一気に衆院選での勝利を狙う目論見だ。つまり、衆院選で勝てる総裁を選ぶことが必須条件となる。
そのために必要なのは、「総裁が変わった」というだけではなく、「自民党が変わった」と判断されることだ。その判断を下すのは、議員や党員ではなく、広く一般の国民である。総裁選出のプロセスについても、以前のように派閥の論理やキングメーカーの意向がまかり通るようでは、国民からの信頼は得られない。
そして、最大の焦点となる政治とカネの問題に、どこまで真剣に取り組むかを厳しく見られるだろう。政務活動費の使途公開など、透明性を高めるための改革を進め、一定の目途がついたと国民の納得を得られることが必要になる。政治改革大綱にある「信頼を回復するためには、今こそ自らの出血と犠牲を覚悟して、国民に政治家の良心と責任感を示す時である」という点が大きな拠り所になるだろう。
そのうえで、デフレ脱却に向けた経済政策や、安全保障の問題など、重要施策において岸田政権よりも良くなるという期待を集められなければ、「自民党は変わった」という国民の判断を得ることは難しいだろう。