8月6日、秋のアメリカ大統領選挙に向けて、与党・民主党の候補者にカマラ・ハリス副大統領が正式指名された。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「ハリス氏の人気が高まっているが、これまで民主党政権下で加速したインフレに対する国民からの不満は大きい」という――。
カマラ・ハリス米副大統領兼2024年民主党大統領候補と、ドナルド・トランプ元米大統領兼共和党大統領候補
写真=AFP/時事通信フォト
カマラ・ハリス米副大統領兼2024年民主党大統領候補(2024年3月26日、ノースカロライナ州ローリー)と、ドナルド・トランプ元米大統領兼共和党大統領候補(2024年6月27日、ジョージア州アトランタ、ジョー・バイデン米大統領との第1回大統領討論会)

ハリス氏の登場で先が見えなくなった大統領選

2024年11月のアメリカ大統領選挙で、共和党のドナルド・トランプ前大統領と戦うと見られていた民主党のジョー・バイデン大統領が、7月21日に撤退を表明した。6月27日に行われた両候補によるテレビ討論会で、バイデン大統領が明らかな「負け」を喫したことが引き金となった候補者の交代劇だった。代わって登場した民主党の候補者はカマラ・ハリス副大統領。ジャマイカ出身でアフリカ系の父とインド出身の母を持ち、「黒人」で「アジア系」で「女性」という、アメリカの多様性を体現する候補者だ。

7月13日にはペンシルベニア州での演説中にトランプ氏が銃撃されるという事件が発生。それまでの対バイデン氏における優位性と、耳から血を流したトランプ氏が星条旗を背に高々と拳を掲げるセンセーショナルな写真が相まって、一時はトランプ氏有利の情勢が報道された。しかし、検事出身という経歴を全面に出し、有罪判決を受けているトランプ氏との違いを明確にアピールしたハリス氏の人気は徐々に高まり、メディアでは「ハリス旋風」とまで言われるようになった。

本稿執筆時点で詳細な経済政策を発表していないが、ハリス氏が国際協調を重視し、気候変動対策にも積極的な姿勢を見せてきたバイデン政権の路線を踏襲するのは間違いない。「MAGA(Make America Great Again)」を掲げ、自国第一主義で経済重視のトランプ氏とは対照的だ。

【図表1】ハリス氏対トランプ氏のポジショニング
筆者作成

トランプ氏の発言から読み取れる「恐れ」

そもそも2020年の前回大統領選挙は、自国第一主義、移民排斥、石油・ガス産業優遇という「本音」で「強権的」なトランプ氏に対して、国際協調、多様性・人権重視、気候変動対策という「良きアメリカを取り戻す」(build back better)ことに取り組む、いわば「正義」のバイデン氏が勝ったという構図であった。

今回の大統領選挙でもトランプ氏とハリス氏は同じ対立構図になるが、ハリス氏はバイデン氏以上に急進左派と見られている。ここは、副大統領候補であるミネソタ州のワルツ知事とともにハリス陣営のアキレス腱であり、トランプ陣営がさらに攻撃を強めるのは確実だ。

対してハリス氏は元検事という経歴をバックグラウンドにしてトランプ氏を「重罪者」と呼び、対決姿勢を強めている。一方のトランプ氏はハリス氏に対して「ずっとインド人だったのに、急に黒人に変身した」と批判し、人種差別的だと波紋を呼んだ。トランプ氏のこうした発言からは、裏を返せば、「黒人」であるハリス氏がさまざまな属性の有権者から支持を集めるのではないかと、恐れを抱いていることが読み取れる。