たった1日で「トヨタの時価総額より多い額」が蒸発
9月3日、米エヌビディア(NVIDIA)の株価が急落した。値下がり率は9.5%であり、1日で時価総額が2789億ドル(約40兆5460億円)減ったことになる。米国市場の1銘柄としては過去最大の金額で、トヨタの時価総額(約39兆円)よりも多い。
今回の株価急落が注目されたのは、これまでエヌビディアの急成長がすさまじかったからだ。株式市場の一部で“エヌビディア祭り”と言われ、「バブルではないか」と疑う声はあった。
エヌビディアの株価は、今年6月20日に140.76ドルの最高値をつけ、時価総額は約3兆3300億ドルに達した。一時的とはいえ、時価総額が世界一高い企業となった。1年ほどで、時価総額が3倍以上になる驚異の成長ぶりだった。
半導体メーカーのエヌビディアは1993年に設立され、カリフォルニア州サンタクララに本社がある。
画像処理に特化した高性能GPU(Graphics Processing Unit:グラフィックス処理ユニット)で世界をリードし、2010年代前半までゲーミング市場で成長をつづけた。2010年代半ばからAI分野で存在感を高め、2010年代後半から大規模なデータセンターに同社のGPUは不可欠といわれるようになった。
2020年代になり、ChatGPTはじめ生成AIに注目が集まると、AI開発の半導体需要が期待され、エヌビディアの株価は高騰した。ゲーミング、データセンターのほかにも、製造業やエンタメ業界が利用するプロ向けのグラフィックス技術、クルマの自動運転技術など、エヌビディアの高性能GPUが求められる分野は広い。
「AI産業の牽引役」「AI革命の立役者」と呼ばれるのも納得できる。
株価急落は、あくまで「調整局面」である
それだけに今回の株価急落が市場に与えたショックは大きい。「AIバブルが弾けた」「本当はAIに将来性はない」と早まった見方が出てくるのも無理はないだろう。
株価急落の要因はいくつか考えられる。一番大きいのは、8月28日に発表された今年8~10月期の売上高見通しだ。
売上高が前年同期比で79.4%増、前四半期比で8.2%の伸びというのは、他社であれば好業績といっていい。しかしエヌビディアでは、株を手放すマイナスの材料となる。
ここ数年の決算を見ると、たしかに「業績悪化」だ。今年の5~7月期まで、売上高は前年同期比で2倍以上、前四半期比で10%以上が当たり前だった。今年8~10月期の見通しが市場予想より低いことから、投資家たちは「成長のペースが鈍化した」と判断したのだ。
8月28日に発表された5~7月期決算は、売上高が前年同期比2.2倍の4兆3500億円、純利益は同2.7倍の2兆4000億円。いずれも市場予想を上まわる結果だった。
前の四半期が好調だったにもかかわらず、同時に発表された8~10月期の見通しによって株価が急落。筆者は一報を聞いて、「調整局面」だと判断した。急成長が続けば、どこかで調整局面を迎えると考えるのが妥当だろう。
もちろん、エヌビディアにリスク要因がないわけではない。