むしろAI開発競争は「激化」が予想される
米国の株式市場は、9月は株式市場のパフォーマンスが低下するうえに、現在は景気後退が懸念されている。この日はダウ平均、S&P500、ナスダックなど各種指数は悪化し、エヌビディア以外のメガテック企業も軒並み株価を下げた。米国の株式市場を牽引するエヌビディアだから目立ったのだ。
景気が後退し、メガテック企業がAI投資を減らせば、GPUを供給するエヌビディアの業績は悪化する。ただし、景気が後退すると同時にAI投資の減速が長く続くことは考えにくく、エヌビディアが影響を受けるとしても半年、1年と続くことはまずないだろう。中長期で見たら、業績も株価も上昇するものと予想される。
実際にエヌビディアの株価は、同じ週の9月6日(金)に102.83ドルまで値を下げたが、翌週には以前の水準まで回復した。
現在の生成AI産業は、メガテック企業どうしの競争が激しく、最大のトレンドであるAIへの投資を減らして勝つことは困難だ。むしろAI開発が競争の要点になるだろう。
筆者が考える生成AI、AIモデルでの競争条件は、以下の3つだ。
① AIモデルの規模と性能
② 計算資源(GPUクラスタ)
③ データの質と量(データセット)
これからAI業界は「二極化」が進んでいく
AI産業は「規模の競争」であり、GPUが重要な計算資源となる。ほかにクラウドプラットフォームの有無、エコシステムとパートナーシップなども考えられる。
基幹となるAIモデルではアマゾン、グーグル、マイクロソフトのメガテック3社やメタが、新興勢力を取り込みながら覇権を握ろうとしている。一方、独立系の新興AI企業は、対象とする言語や用途に特化する「差別化集中戦略」を採用して生き残りを図っている。日本では富士通が資本・業務提携しているカナダのコーヒアが代表例だ。
AI業界は将来的に、二極化すると筆者は見ている。ひとつは、メガテック企業が独自のLLM(大規模言語モデル)を開発し、ユーザーはAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)で利用するもの。もうひとつは、新興企業が特化型LLMを開発し、知的財産をコントロールするものだ。
エヌビディアの売り上げは、現在はデータセンター向けが87%を占めている。そのうち40%以上はアマゾン、グーグル、マイクロソフトなどのクラウド大手向けである。
エヌビディア急成長の背景には、生成AIの加速度的な進歩があり、同社は生成AIに会社の資源を集中してきた。ハードウェアのGPUを製造するだけでなく、ソフトウェア開発の支援環境、開発ツールなども同時に提供してきた。いわばGPUをめぐる「エコシステム」を構築してきた企業といえる。