1客1万円近くするコーヒーカップも
出資してくれた伊勢久は試薬、化成品、メディカル、セラミックスを扱う商社だ。創業は1758年(宝暦8年)、江戸時代である。売り上げは289億円で従業員数は約240人。タイ・イセキュウには常時、ひとりが駐在している。現在の担当は新貝達矢。新貝はベンジャロン焼以外の営業をしている。
店頭にあるベンジャロン焼はコーヒーカップ、ワイングラス、抹茶茶碗、小皿、香合、装飾品の壺といったもの。価格はコーヒーカップが1客で日本円にすると7000~8000円だ。決して安いものではない。いずれの商品もタイ王室御用達の高級磁器らしい値段である。
バンコクの高級タイ料理店に行くとベンジャロン焼の壺が飾ってあることに出くわす。料理を盛る皿というよりも、飾り皿として使われることが多いのではないか。タイ料理を盛る皿としてはセラドン焼きという青磁の器、もしくは染付(青花)の磁器が一般的だ。
こちらもまたバンコク市内だけでなく土産品を売る店舗がある。また、ベンジャロン焼はタイ・イセキュウだけで売っているわけではない。バンコク市内にも店舗があるし、同市内から70キロ離れた場所には「ブランベンジャロン」というベンジャロン焼の里がある。日本でいえば益子焼の益子のようなものだろう。
わたしはそこには行っていないが、市内の他の店舗は見た。置いてあるベンジャロン焼の種類、値段はどこも変わらない。ただ、タイ・イセキュウでは店内でタイ人従業員が絵付けをしている。また、絵付け教室も開いている。
煌びやかな五彩にエキゾチックな文様が特徴
野村は言った。
「うちにある商品は駐在している日本人、そして日本人観光客の方が買い求めていきます。カップや茶碗の胴の部分が薄いわけではないので、パッキングして機内に持ち込めば割れることはありません。絵付け教室に来る方は主に駐在員の奥さまですね」
ベンジャロン焼の特徴は絢爛なこと。花や葉っぱを図案化して細かいパターンにしてある。そして、金色の他、赤、青、黄色、緑、白と5色を使い、華やかに仕上げてある。
ただし、タイ・イセキュウの店には野村の父親、母親が考えたとみられる日本風意匠の製品がある。有田焼、九谷焼のような日本の磁器に似たもので、白の余白が目立つ製品だ。本来のベンジャロン焼は金色と5色のそれなのだろうけれど、日本に戻って食卓に置いたら、土産物という感じが強調されるのではないか。
一方、白の余白が多く、金色を配したベンジャロン焼であればエキゾチックな気配を残しながら、上品な印象が保持される。余計なお世話だけれど、わたしなら白の余白が多い控えめなベンジャロン焼にしておく。